I.  設立の目的

  回折構造生物学及びその関連技術開発は21世紀における生命科学を基礎とするあらゆる分野の発展にとって必須であり、またこれを使って得られた生体高分子3次元構造の利用技術の開発は医学、薬学、農学、工学など多分野の基礎として重要である。本研究委員会は、これらの回折構造生物学及びその関連分野の発展を目的とした関連技術開発を目的として設立を希望するものである。

  我々の生命健康体は、細胞内に秘められた30億ビット以上の遺伝情報の指令に基づいて酵素やホルモン等の有用生理活性物質が生体内で生産され、免疫機構が動員されることにより維持されている。生命の基本的な機能を司る蛋白質等の生体高分子の持つ本来の機能を解明するためには、これらが機能している状態に於ける立体的な構造や物性を理解することが出発点となる。ヒトの疾病や病態を治癒し、健康を回復する役割を担っているのが医薬品であるが、生体中での機能に基づいた、より優れた医薬品を開発するには立体的な構造、即ち3次元構造を知ることが極めて能率的である。

  生体高分子の立体構造は医薬分野のみならず農薬や食品工業その他日用品の開発や環境保全に至るまで多くの分野で必要とされている。しかるに現状を見ると、我が国における有職者としての蛋白質結晶解析従事者数は200人以下である。これに対し米国では2,000人を越えると云われており、その差はあまりにも大きい。即ち、これまで日本の企業がこの分野で大きく遅れをとっており、この状態を打破しない限り、単に構造生物学のみならず立体構造を必要とするバイオテクノロジー分野の将来も危惧される状態である。別の言い方をすると、この事は我が国における蛋白質結晶解析の大半が国立大学に依存している結果である。企業が積極的にこの分野の開発を行わない限り、大学で頑張ってみても限度がある。即ち教育しても就職先がなければ先細りである。

  蛋白質など生体高分子のX線結晶構造解析には放射光が極めて有効である。一部の企業人からはPFの利用に対して強い要望がありそれを受けて、平成8年、PFと筑波大学の先端学際領域研究センター(TARA)が協力して産官学が共に利用できるTARA用ビームラインの建設が実現した。そして更にSPring-8でも兵庫県ビームラインの中に企業用の蛋白質結晶構造解析用ビームラインが誕生した。しかし、これだけでは不足であり、もっと積極的に企業に働きかけ、この分野を発展させる必要がある。世界最大の放射光施設であるSPring-8も順調に稼働し成果を出し始めている。即ち、我が国には東と西にX線結晶解析用の放射光施設が利用できることになった。更に、原研の中性子線施設及び数力所にある我が国の世界最高レベルにある生体高分子用高分解能電子顕微鏡もこの分野の発展に欠かせないものである。

  この時期に全国的なレベルで産官学が協力し、特に企業に生体高分子の3次元構造に基づく効率的な開発体制が出来るよう「回折構造生物研究委員会」を設立することは極めて重要であり、急務である。



II.活動方針

本会はX線結晶構造解析、中性子線結晶構造解析、電子顕微鏡等を利用して生体高分子の3次元構造を決定するのに必要な過程にかかわっている研究者すなわち、大量発現、精製、結晶化、宇宙環境利用による良質結晶を得る方法の研究などを得意とする人達、3次元構造解析を打っている研究者、それに得られた構造を利用してドラッグデザイン、構造予測を行う研究者等を含む極めて学際的な会である。さらに研究手段として装置開発を行う研究者にも参加願う。委員として全ての分野の方の参加が不可能な場合でも、少なくとも研究会の講師として話題提供をお願いする。対象とする個々の研究テーマは各人、各グループの自主性に委ねるがそれらの発展を支援するための事業を行う。また本研究を通して優秀な若手研究者の育成を図る。

  1. 本研究会に属する多分野の研究者が一堂に会し、夫々の分野の言葉で話すのを理解するのには時間的ゆとりが必要である。即ち、これまでの学会では果たし得なかったゆとりを持った研究会を定期的(年3回以上)に開催し研究発表及び討論を行う。若手の育成をはかるため研究会には若手研究者にもオブザーバーとして参加を要請する。また、情報交換・人的交流を通じて相互理解を深める。日常的な情報交換についてはインターネット等を利用する。

  2. 情報ネットワークの構築を促進する。主な情報としては放射光及び中性子線等委員の多くが利用する大型ならに中型の装置等に関するもの、構造解析関連ソフト、関連データベース情報、行事等の計画、成果報告などを掲載する。

  3. 財政の許す範囲で、研究費及び海外派遣、招聘を含む旅費等の援助を行う。

  4. 国際会議を開催することが出来る。

  5. 回折構造生物学の重要性を啓蒙し、参加企業数の増加を計る。

  6. 研究委員会に特定の課題について研究を推進するための分科会を設置すことがある。

  7. 研究委員会の予算、決算、研究計画等の運営に関する事項は、委員長、幹事及び委員若干名より構成される運営委員会において決定する。なお、本委員会は平成12年1月1目より5年間の予定で設置され、構成は当初企業関係者31名、大学官庁関係研究者36名とするが今後企業関係者の増加に伴い大学官庁研究者数も増加させ、この分野の発展速度を加速する。なお、必要に応じ若干名のオブザーバーの参加を認めるものとする。