構造生物 1995年9月発行

報告

本プロジェクト発足までの一年間をかえりみて

坂部 知平(筑波大学教授)


私は以前からPFに隣接する研究機関が必要であることを痛感していましたが実行可能な具体案が思い付かないまま、昨年高エネルギー物理学研究所を定年になりました。丁度その年、筑波大学にTARAセンターが発足し、幸い私は筑波大学に赴任することが出来ました。私は自分勝手に、筑波大学における私の使命は「筑波大学とPFを太い絆で結び放射光利用の科学を発展させるための基礎を作ることにある、それにはTARAプロジェクトを利用させて頂くのが最良の策」と考え、平成5年度迄研究担当副学長をしておられ、また私が筑波大学に赴任するに当たり大変お世話になりました、南日康夫先生にご意見を伺いました(資料1)。南日康夫先生は大変喜ばれ、是非とも進めるようにと励まして下さいました。資料1に掲げましたように、最初は蛋白質結晶学関係分野だけでなく、もっと広い分野を考えていたのですが、先生のご助言に従い、虻蜂取らずにならないよう、まずは蛋白質の緒晶解析関係に限る事にしました。続いてTARAセンター長の村上和雄先生の賛同も得られました。村上先生は「素晴らしい計画なので是非とも成功させて上げたいがTARAのプロジェクトとして認められるためには2段階の審査があり、これは大変難しいですよ」云われました。平成6年6月に第1回のTARAプロジェクトの公募がありましたが、大きな計画はまず基礎を固めてからと思い、応募しませんでした。

 6月23日に三共の畠忠さんが施設利用としてPFに来られたのでこの計画を話したところ、今産業界でも望んでいる所であり、「シンクロトロン放射光蛋白結晶構造解析産業利用懇談会」の世話役を引き継いだので一緒に頑張りましょうと云われ、強力な相棒ができ大きく前進しました。即ち筑波大学及びPFに対しては私が担当し、産業界は総て畠さんに受け持って頂けるようになりました。少しばかり困った事には6月の公募に応募しなかったため正式なTARAブロジェクトとして話を持って行くことが出来ず、総て筑波大学教授坂部知平の責任で、もしTARAプロジェクトが通ったらと言う「たら」付きでしか話しが出来ず、何となく迫力に欠けました。今になって考えると、良くまあ皆さん頼りない私の云うことを信じて賛成して下さったものと感謝致しております。恐らく畠さんの説得が極めて功を奏したのでしょう。

 畠さんの呼びかけで産業界との第1回会合が8月11日筑波大学本部棟で開催されました。産業界からは資料2に示す14社20名の参加があり筑波大学からは村上和雄教授、南日康夫教授と坂部知平が参加しました。この計画に対するPF施設長の個人的な賛成は得ていましたが、PFの許可を得るためには多くの手続きが必要なため、第1回会合にはPFからの出席は有りませんでした。まず村上センター長からTARAについての説明が行われ、引き続き坂部知平から放射光の有効性やTARA用実験ステーションの計画、必要経費等の説明があり、質疑応答の結果前向きに検討することが決定されました。そして今後の進め方を検討するためTARAビームライン建設委員会(仮称)を設け、暫定的に工一ザイ(株)の池森恵さん、三共(株)の畠忠さん、三菱化学(株)片柳克夫さん、山之内製薬(株)の栗原宏之さんと坂部知平らを委員として選出し、また委員会が必要と認めた場合は適宜出席を依頼できる事を決め、此の相談会は解散しました。8月19日研究プロジェクト用ビームライン建設委員会が筑波大学にて開催されました。上記委員の他にTARAセンター長村上教授及びPFからは個人の資格で測定器研究系主幹の松下正教授に参加して頂きました。

一方畠忠さんが9月9日筑波大学TARAビームラインに関する坂部提案を受けて、此の計画が如何に必要なものであるかを説明するため「シンクロトロン放射光と薬物設計」と題する文(資料3)を書き、またそれに伴い表に示すアンケートを、SR蛋白産業利用懇談会会員名簿兼連絡網を通じ発送されました。

三共(株)分析代謝研究所

  畠  忠  宛

TEL03−3492-3131

FAX03-5436-8567

 

アンケート用紙

 

                             所属

                             氏名

坂部提案について

 積極的に参加   参加の方向で検討   半口なら参加   不参加

 その他(                            )

 

正式な提案書(12月か来年の1月発行予定)について

 欲しい(郵送                          )

    (                            )

    (                            )

 いらない

 

正式な提案書による説明会について

開催してほしい           必要ない

その他(                            )

X線結晶構造解析の実務に関する産業界中心の講習会或いは懇談会について

開催してほしい          必要ない

その他(                            )

 

その他御意見を御寄せ下さい。

 

 その結果6社の参加は確実と判断しPFとの交渉に拍車が掛かりBL6Bをターゲットビームラインとして交渉しました。その後多くの手続きを経て平成7年11月17日に筑波大学(TARA)がPFのBL6Bに実験ステーションを建設することが正式に認められました(資料4)。

 BL6B実験ステーションを平成8年5月にオープンするためには、業者との打合せを2〜3月に始め、4月までには仕様を完成し話を進める必要があります。そして遅くとも7月までには正式に発注しなければ間に合いません。その為には7月までに6社以上の企業が建設に参加し、寄付を行って下さる必要があります。この様な訳で、可成り無理な計画とは思いましたが初回の募金締め切り時期を7月末日と定め、実験ステーション建設参加企業の募集要項を作り12月28日に発送しました。畠忠さんのご意見に従い平成7年1月20日に実験ステーション建設に関する説明及び相談会を筑波大学本部棟8階の特別会議室で開催いたしました(資料5)。関西大地震の直後であったにも係わらず、16社から19名の参加があり、関西からもご出席下さいました。

 此の会の効率を上げるため、予め質間を求め、それに対する私の意見を書いたもの(資料6)を用意しました。

 企業の希望に合った実験ステーションであると同時に他の利用者の希望にも合致したものにするのが理想的です。共同利用者の意見はJPXTAL(パソコン通信)や或いは個人的に聞いているので可成り分かっているつもりですが企業に対してはお互いにあまり理解していない様に思えました。そこで私の考えを企業の方々に理解して頂くの事を含め、アンケート行うことにしました。17社中15社からご返事が頂けましたので、それを集計し、更に私の意見を加えた、「アンケートの集計結果」なるものを作り(資料7)、2月28日に回答を下さった企業に配りました。此のアンケートにより方針が決まりましたので、仕様作製を開始致しました。

 現在のBL6Bハッチよりどれだけ大きく出来るか、私なりに測定しましたが、正確を期するため、3月2日本プロジェクト第1班(装置開発)に属する理化学研究所の神谷信夫氏と足立伸一氏にBL6B及びBL6Cに関する実測を行って頂きました。図面があっても実測するのは、図面が出来た後もし変更が有った場合、取返しの付かないことに成ると大変だからです。3月21日に仕様の私案を完成させ第1班全員に配ってご意見を伺いました。それらのご意見をもとに2月28日に仕様が完成しました。これから業者と詳しい打合せを行い、図面の検討に入ります。このほか集光ミラー等光学系の設計、ハッチの設計等は渡辺信久氏及び本年4月にPFに赴任された鈴木守氏等が担当して下さいます。ハッチの上に2階を作り更にBL6A迄2階を拡げ階段も設置する予定です。集光ミラーの保守の際クレーンが必要ですが、2階に遮られて既設のクレーンが使用できなくなりますので、自前のクレーンを設置しなければならないかも知れません。それらも含めて渡辺信久及び鈴木守両氏が受け持って下さいます。又安全に不可欠なインターロックについてはPFの伊藤健二博士及び小菅隆氏等の御厚意により担当して下さる予定です。

 平成7年度のTARAプロジェクト募集が平成6年12月1日に行われ第一段審査用申請書の締め切り日は12月22目でした。A4で4枚以内にまとめることは大変でしたが何とか12月16日に申請する事ができました。平成7年1月30日付で1次審査合格の通知を受け取りました。2段蕃査用の申請締め切りは2月21日で、今回は10枚迄許されました。申請書を資料8に示します。今回最も苦労したのは、「一般向けのポンチ絵」を作ることでした。6冊の本を買い「勉学?」に勤しみましたが、才能無く此の程度で許してもらうことにしました。3月6日、13:20より説明20分、質疑応答15分の公開ヒヤリングがありました。どうやら総て無事通ったらしく、平成7年4月24日付けで本プロジェクト採択の通知及び審査会からのコメント(資料9)を受け取りました。