構造生物 Vol.1 No2
1995年12月発行

「構造生物学センター」提案への賛意表明


松崎尹雄

三菱化学・横総研

Approval to the Sakabe Proposal for "A Structural Biology Center"

Mitsubishi Chemical Corp., Yokohama Research Center Takao Matsuzaki

Looking at the ratio of the number of protein crystallographers in the US and Japan, ca. 10:1, the author believe that the new center will lift Japanese activity to a level equivalent to her economic power, ie. 2:1 to the US.

坂部先生の標記提案について、双手を挙げて賛成します。「遅きに失した」という厳し い見方もあろうと思われるほど、米国と日本の蛋白質結晶学には大差がついてしまった。1980年代の中頃に私は、「バイオテクノロジーを中心とする医薬開発は、半導体・自動 車についで、日本が世界をリードする分野である」と想像していた。米国の識者も同様の危惧を抱いたようで、下院委員会が組織され、「日本にバイオ分野で抜かれないようにするには米国はどうすれば良いか」を探るため、著名な科学者で構成された調査団が我々の研究所に2回も訪れ、当方の放言を克明にパソコン入力していた。ところが1990年代も なかばとなって、現状を見ると、蛋白質結晶解析従事者(有給)の数は米国2,000人 に対し、日本200人(過大見積?)であり、人口比、GNP比ともに約2:1である、 いわゆる国力とは、かけ離れた状況になってしまった。

一方、上記の見方とは異なり、「放射光利用蛋白質結晶学では、世界のトップ集団にあ り、むしろ、一歩先んじているので、蛋白質結晶学全体を見れば、日本も結構よくやっている」という意見もあろう。しかし、企業に在籍する立場には次のように見える。「医薬開発に重要な蛋白質の解析はほとんど欧米に先を越され(勿論、例外があることは十分承 知ですので、ご自分の研究は例外に属するとお考えください)、今後も回復の見通しが立 たない。今や、日本でも35社が蛋白質用X線2次元検出装置を導入し、蛋白質結晶解析 グループを発足させ、その数は米国に匹敵するようになった。しかし、各社2-3名の標準レベル研究者(ぜい沢は言わない…)が必要としても既在籍者のほかに約80名の大 学院卒業生が求められている。大学ですら、助教授・助手の確保に悩んでいる時に、企業の要請に応えるのは容易ではない。」と。

このような状況下で、坂部先生は企業の放射光必要度を十分に考慮にいれ、大学・公立 研究所が必要としている設備との両得を図って、「TARA坂部プロジェクト」を企画・ 実現された。企業の放射光利用に関しては、数年前から活動している米国のIMCAでも X線ビームがやっと出た段階にあり、坂部プロジェクトはそれを一挙に抜き、1-2年の 差をつけたことになる。海外企業が坂部プロジェクトに参加の方向にあることも当然である。今回の新提案は、上記の状況をさらに深く考察された結論として、正面から解決の道を開こうとするものと理解している。高エネ研でフル稼動している、世界でも類のない安定した放射光と坂部カメラに代表される新規装置開発力を核として、日本で不十分である蛋白質大量発現・精製技術、最近発展の目覚しいNMR、電顕、散乱、理論計算の技術を 総合し、世界に例のない大学・公立研・企業の組織的、協力体制を築いて米国を追いかければ、いづれ肩を並べる日が来ることも夢ではない。

新提案の実現にいささかでもお役に立てればと思っている。


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