構造生物 Vol.2 No1
1996年4月発行

DENZOによるプロセス


富崎孝司

大阪大・蛋白研

1. 序論

DENZO、INST_WElS及びSCALEPACKの3プログラムからなる単結晶回折データ 処理パッケージについて述べる。DENZOはauto indexing、 結晶や検出器に関するパラ メータの精密化、観測強度の積分を行うことが出来る。INST_WEISはデータの表示や ピークサーチ等、SCALEPACKはデータの相対的スケールの決定及び統合を行うプログ ラムである。DENZOとSCALEPACKはZbyszek Otwinowski(Z.O.)、INST_WElSは Wladek Minorにより開発された。本プログラムは本来振動写真の処理用に開発された ものであるがワイセンベルグ写真も処理も可能である。DENZOの特徴はパラメータの収 束範囲が広く、 スケーリンクプログラムSCALEPACKと組み合わせることによって postrefinement、Partial addなどの機能を実現していることである。また.処理を 高速化することにより、インターラクティブな操作性があがり、autoindexingがうまく 働くことから1セツトのデータ収集において多数の結晶を使い軸の方位など気にせずに べ集めたデータ処理にも利用できる。このプログラムは実験室で使われている回折のデータプロセスに、広く利用されている。ここではまずプロセスの方法を簡単に紹介し、そ の際特に利用上注意を要する点を述べる。最後に実例としてPFで巨大分子用ワイセン ベルグカメラとイメージングプレートにより収集したデータについて、注意点に留意し て処理することによりデータの質を向上することが出来たものについて紹介する。

2. DENZOによるデータ処理の方法及び注意点

DENZOで処理する場合、データ測定において幾つか注意する点がある。ワイセンベ ルグ写真法によりデータ収集を行う場合には逆格子軸が入射X線と平行または垂直にな るような方位で方位決定をすることは困難である。PostrefinementやPartia1addを 行いたい場合は振動角のオーバーラップをとらずにデータ測定を行い、.結晶のスリップ に注意しなければならない。Z.O.はカメラ長の精密化を勧めていないのでデータ撮影時 にはカセット及び1Pを慎重に固定する。

表1DENZOによるデータ処理のステップ

  1. 生データの表示及びピークサーチ
  2. 結晶方位の決定
  3. 結晶及び検出器のパラメータの精密化
  4. 回折点の積分
  5. 各イメージの相対スケールの決定
  6. 全データセットを用いた結晶パラメータの精密な決定
  7. 観測強度の統合及び統計的分析

データ処理の主要なステップを表1に示す。1)はINST_WE1S、2)〜4)は DENZOとINST_WElS、5)〜7)はSCALEPACKを用いる。データの測定さえ良好に できていればデータの処理自体はマニュアルに従って処理すれば、特に注意することは ない。注意するべき点を挙げるとすれば、

autoindexingの時のパラメータの設定
精密化するパラメータの順序、種類、回数
measurement boxの大きさ

などである。

2-1 autoindexingの時のパラメータの設定

結晶性が悪く反射があまり写ってない場合や、ノイズの多い時、ワイセンベルグ写 真のように振動範囲の広い写真から結晶方位を決定するときなどは以下の方法を試して いる。

使用するピークの数を増やす。
スポットの領域を大きくする。
低角側の反射を除く。
他のlPでためす。

DENZOで使用されているautoindexingのルーチンは回折点から実格二子ヘクトルを 計算し、それらのヘクトルの統計を取って結晶方位を決定する。そのために、使用する ピークの数を増やした方が精度が上がるようである。また、低角側ではノイズをサンプ リングしやすいので格子があわない場合には低角側の反射をはずしたほうが結晶方位マ トリックスが正しくが決まるようになる。通常、私は分解能の範囲を100-5Åの範 囲の反射を使って結晶方位を決定しているが、これで結晶方位が決まらないときは低角 の反射をはずして範囲を10-5Åに変更したりしている。スポットの領域を大きくす るのは、結晶方位の見積もりが甘かった場合、パラメータの精密化の一回目を実行する 段階で、微妙に回折点から計算値がずれている場合にパラメータが発散するのを防ぐた めである。ワイセンベルグ写真などの結晶方位の決定には条件が厳しいデータの場合は、box printの値を2.0、spot ellipticalの値を1.0程度に設定している。また、空間群 を限定しない方が結晶方位が決まりやすいので、最初はP1で結晶方位を決定し、その 結果をみて空間群と結晶方位を入力してプロセスを行うとよい.逆格子軸が見えている ようなデータではまず結晶方位は決まらないので、他のデータで結晶方位の決定を試み る方がよいだろう。

2-2 精密化するパラメータの順序、種類、回数

実験時に通常変化することがないパラメータ(Ysca1e、skew、distanceなど)は 最後に精密化して、結晶方位や格子定数などから精密化を始めればよい.このあたりは マニュアルに書いてあるが、三斜晶系では(resolution/λ)≦1.5、三方晶系/正 方晶系以上の対称のものは(resolution/λ)≦2.0でのみ精密化するべきである。 eigenvalue errorが気になる場合には相関の高いパラメータを同時に精密化するのを やめて、分解能が低いうちはあまり多くのパラメータを同時に精密化しない方が良い。

2-3 measurement boxの大きさ

DENZOはバージョン1.4(現バージョンは1.5)からバックグラウンドの見積もりを 変更している。Z.O.自身が処理を行っているのをみた限りでは、このバージョンからは スポットがオーバーラップしていなければバックグラウンド領域にある反射は自動的に 除いて積分を行っているようである。ただし、spotの領域はスクリーン上で実際の回 折点をみながらパラメータを動かすと処理した結果もよくなる。

3. PFデータ処理の実例

データ処理に於いてmeasurementboxや積分する分解能を調整しただけで、処理 の結果が大幅に改善されることを示す。ここで使用したデータはPFのBL6に設置され た巨大分子用ワイセンベルグカメラとイメージングプレート(BASV)、イメージリーダ (BA1OO)を利用して収集したものです。

まず、パラメータとしてmeasurement box、spot、backgroudと分解能を変化す ることによりデータの質を大幅に向上させることができた例を示す。図1-1にイメー ジの平均化された反射のプロファイルを示す。図から、反射としてアサインすべき領域 が計算から得られspotの領域(十の領域)より大きく、またmeasurement boxも必要 以上に大きいことがわかる。そこで、measurement boxを1.8から1.1、spotを0.3 から0.45、backgroundを0.4から0.55に変更して得られた反射のprofileが図1-2で、 ここではピーク値が10以上のピクセルはすべて積分領域に納まっている。上記の2つの条件で計算した各々のhistogramを図2-1、2に示す。ここでのzoneは入力したMosaicity の一1/2から十1/2を20等分した値である。zoneが0の位置がBragg conditionの成り 立っている位置である。zoneの負の値は既に反射がBragg conditionを充たす位置を 通過していることを意味している。Partは各々のzoneでのpartia1ityである。故に -mosaicity/2付近のpartは1.00に近く、mosaicity/2に近づくに従って0.00ま で小さくなるはずである。box、spot、background、mosaicity、分解能を調整するこ とによりhistogramは図2-1から図2-2の様に改善された。また理想的なhistogram はThe MacDenzo Manual Edition 4の中で理想的なhistogram例として揚げられてい るもので図2-1はこの分布から極めて遠いがパラメータを変えることにより図2-2に みられるように理想的なhistogram(図2-3)に近づけることができたことがわかる。 このデータについてscalepackにより同一条件によりsca1eした結果をそれぞれ表2-1、 2に示す。各schellでのR-factorとChi**2の何れもが改善され、バックグラウンドの見積もりが小さくなったので平均強度は強くなったようにみえる。tota1のR-factorは0.134から0.99と0.035も減少した。この様に処理の条件を検討することにより良い 観測強度データを得ることが出来た。

実験室の回折型の場合測定は自動化されており、イメージングプレートは固定されて いるので処理はバッチ法により行うのが常道である。しかしながらBL6Aの場合は自動 化が行われておらずイメージングプレートの装着と脱着を必用とする。そこでイメージ ングプレート上でのビームポジションの位置の再現性が問題になる。 DENZO/SCALEPACKのmosaicityの見積もりはデータの質をよく反映している。表3 はSCALEPACKのログの一部で各フィルムごとの格子定数と結晶方位、mosaicity、 Rmergeを示している.同じバッチから得た外見ではよく似た4種類の結晶A、B、C、Dに ついてフィルム毎のデータの比較を行った。それぞれのrotx、roty、rotzから明らかなように結晶の方位は異なる。多くの結晶から1セツトのデータを作る際にはモザイクの小 さい結晶でしかも差の少ないものを集めるのがよい。mosaicityの大きさはデータの質、 分解能に影響している。当月原研究室ではチトクロム酸化酵素の解析を行ったが、その 際にはNativeだけで100数十セツトのデータ測定をを行なった。本酵素はX線照射に より非常に損傷を受け安いので軸立てをせずにデータ測定を行った。また結晶は斜方晶 系で空間群がP212121、格子定数がa=189.1Å、b=210.5Å、c=178.6Åと大きいので振 動写真法が使われた。そのためデータ処理にDENZOを活用することにより解析にこぎつ けることができたもっともよい例であると思う。この場合も数多くとったデータセット 中からmosaicityが小さく値がそろった結晶を選んでデータセットを作った。表4にこ のデータをつかったバッチ法による処理例を示す。

サンプルデータを御提供いただき草稿を御一読下さいました東京大学理学部の濡木先 生に感謝致します。

本研究はTARAプロジェクトのビームラインアシスタントとしてPFに滞在中に行われ たものです。機会を提供して下さった坂部教授に感謝いたします。

現住所
Takashi Tomizaki
c/o Dr.S.Wakatsuki
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