構造生物 Vol.2 No1
1996年4月発行

TARA坂部プロジェクトパネルディスカッション参加レポート
−pFと実験室系のIPの相違:野中孝昌先生(長岡技術大学)−


木下誉富

藤沢薬品工業(株)基盤技術研究室

活発な議論が繰り広げられ、大いに盛り上がりました、今回のパネルディスカッショ ンに参加できたことを感謝しています。早起きして、大阪から行った甲斐がありました。第2回目以降もこのように盛り上がることを期待しております。さて、早速ですが、野中 先生講演部分のまとめをおおせつかりましたので、報告させていただきます。至らぬ点も多かろうと思いますが、どうぞお許しください。

下記のいくつかの具体例を挙げて、PFと実験室系でそれぞれの特長を生かしたデー タ収集について御講演されましたものを項目別に、講演の要旨と私自身の感想等をまとめてみました。

高分解能までデータが得られるような通常の場合

ウシガエル卵由来レクチン(P3221, a=b=42.24Å, c=119.4Å) −実験室系では1.6Å分解能までしか記録できないので(RAXIS-IIc)、PFでは実験 室系より高分解能のデータをねらって、できるだけ大きなIPを使用し、回折をおこ している反射の強度を無駄なく記録する。また、この結晶に限ったことではないが、 PFではX線が強いため、結晶のダメージとIPの検出上限界(ピークの頭打ち)に注 意する必要がある。結晶のダメージに対しては、少ない写真で軸立てを行い、振動 法より少ない枚数で全データが測定可能なワイセンベルグ法でデータを測定するよ うにして、X線露光時問をなるべく少なくするようにして対処する。IPの検出上限 界に対しては、データの用途を考えた上で、1枚目のIPを参考にX線の露光時間を 調整する。

長い格子

7α-ヒドロキシステロイド脱水素酵素(P41212, a=b=81.59Å,c=214.6Å)−200Åぐらいまでなら、実験室系で測定できるので、可能なかぎりの分解能 のデータを実験室で測定する。高分解能のデータはPFで測定する。

モザイク(回折スポットがストリークを引いている)

リボヌクレアーゼMS(P212121,a=46.52Å,b=60.57Å,c=34.95Å)一スポットが大きく、ストリークを引いているような場合、データが測定できたとしても、現在のところ、データプロセスはかなり困難である。できるだけ多くの結 晶を用意し、軸立ての時のポラロイドのスポットが正常でなければ、その時点で次 の結晶と取り替えてやり直す。だいだい10個に1個ぐらいの割合で良好なデータ が測定可能であった。

何個結晶を取り替えても駄目な場合、あるいは、結晶の絶対数が少なく、こう いう検討が不可能な場合に、このようなデータを何とか処理できないかという話題 で、やや突っ込んだ議論が繰り広げられました。その終盤で出た、東さん(理学) の"何とかなるでしょう。"という発言に大いに期待していますが、こういう結晶 の場合、かなりの労力を使ってでも"いい結晶"をつくろうと考えています。

微結晶(80x40x40μm3

SAMP20/SSI複合体(結晶学的パラメータ不明)
一実験室系ではデータ収集が不可能であり、しかも結晶の数が少なかったので、何 の予備実験もなく振動写真法でデータ測定、DENZOで処理した。DENZ0で結晶学 パラメータ、方位を決定する場合、利用するスポットの数が少ないとうまくいかな い。また、振動角を大きくしすぎると、今度はスポットが重なり過ぎてうまくいか ない。この結晶の場合、結晶学的パラメータが不明であるので、最適な振動角を見 積もることは実質上、不可能である。そこで、いずれかの写真で結晶の方位が決定 できるであろうと目論んで、(2°,3°4°,5°)のセットを繰り返して90°ま でデータ測定した結果、1個の結晶で解析可能(分子置換法)なデータが得られた。

我々のところでは、このように得体の知れない微結晶が数個しか得られない場 合が多々あるので、この方法を一度試してみたいと思っています。

野中先生が講義された一'攻めかは、これからのPFにおけるデータ測定の際に、非常に 参考となりますが、結晶は蛋白質が違えば当然異なるのですから、まだまだ他に様々な" 攻め方"があるように思われます。TARA参画企業の多くは、まだまだPFでの経験が少な く、最良の"攻め方"がわからないという状況に直面するでしょう。また、PFでの経験が豊富な方々においても、得意な"攻め方"、不得意な"攻め方"がそれぞれあると思います。そこで、PFでの経験が少ないTARA参画企業のよりどころとするため、あるいは、不得意な 部分の情報を互いに得るために、TARAに参画されている方々の経験談をまとめた小冊子 あるいは特集号等をつくるというのはいかがでしょうか。初めのうちは、官学関係者各位に御面倒をおかけすることが多いでしょうが、そのうちに企業側のデータも蓄積され、官学関係者各位へのフィードバックも可能になると考えています。こういったことも含めて、産官学が互いに協力し合い、垣根のない研究者集団として、TARA坂部プロジェクトが大いに発展していくことを望んでいます。


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