構造生物 Vol.2 No1
1996年4月発行

キリンビール(株)基盤技術研究所


加藤洋一

キリンビール(株)基盤技術研究所

キリンビール(株)基盤技術研究所(基盤研)は、横浜市金沢区の工業団地に隣 接した金沢バイオパーク内にあります。1992年に建てられた比較的新しい建物で す。東京湾に面した埋め立て地の海沿いに建っているので、晴れた日には対岸の房 総半島が良く見えます。4階建ての建物には海が見渡せるように居室が作ってあるの で、なかなかの展望です。近くには横浜市内唯一の海水浴場(水は緑色であまり泳ぐ 気はしないが、水が温かくなってくると潮干狩りは出来る)や八景島(西武系のテー マパーク)があるので、これからの季節、休日には遊びに来る人の車で交通渋滞が起 こるほどです。しかし、工業団地という性格上、夜になると急激に人が少なくなる ところに妙に広い道路だけが存在するので、ドリフト族と呼ばれる若いお兄さん達 が四つ角をタイヤを鳴らしながら走り回れる数少ないスポットとしても有名なよう です。元来、この辺りは金沢八景と呼ばれるほど風光明美な場所だったそうで、称 名寺(金沢文庫)のような歴史的な建物も保存されていますし、埋め立て地に囲まれ るように昔ながらの漁港も残っていて、東京湾でとれる新鮮な海の幸にもめぐまれ ています。

現在、基盤研には、約60名の研究員がいます。「キリングループ全体のバイ オテクノロジー及び食分野の基盤となる技術を創出する研究所」といういう位置づ けのもと、酵母(ビール醸造に関わる基盤技術の開発の一貫としてビール酵母を改 良する技術の開発)・植物(組換えDNAを使って植物を改良する技術の開発)・蛋 白工学(蛋白質の構造と機能を詳しく調査し、より高機能の蛋白質を作り出す技術 の開発)・糖鎖工学(糖鎖の多彩な機能を自在に利用する技術系の開発)・細胞工 学(動物及び培養細胞で有用物質を効率的に生産する技術の開発)・代謝工学(代 謝経路に着目した理論的な遺伝子変異操作により目的とするバイオケミカルを効率 的に大量生産するための研究)・味覚生理(人がおいしいと感じている状態を感覚 生理要因から科学的に研究し、新たな嗜好品創出の可能性を探る)などの研究を 行っています。遺伝子組換実験室(P2)、パイロットプラント室、アイソトープ実験 施設、温室、動物飼育室等の施設に加え、X線回折装置、質量分析装置、示差走査 熱量計、CDスペクトル測定装置、プロテインシークェンサー、DNAシークェンサー といった設備があります。

私の属している蛋白工学グループは、つい最近まで7名だったのですが、今年 から10名になりました。現在は、この10人で、変異体も含めた蛋白質の発現及び精 製と活性や安定性の評価そして結晶化と結晶構造解析を行っています。X線関係の 設備については、92年に研究所の建物が出来るまでは全くなかったのですが、研究 所建設以降少しずつ整ってきました。現在はX線発生器と回折計および結晶化実験 ロボットと結晶化用恒温機(3台)と若干の顕微鏡システムがあります。コンピュータ, システムについても、初めは研究所のLANシステム用のVAXコンピュータとの共用 だったのですが、UNlXマシンヘの置き換えが進み、グループ専用に3台のUNIXマシ ンを持つようになりました。ソフトウェアもVAXシステム上で動くCCP4のみだっ たのですが、QUANTA/X-PLOR, O, TNT, Phases, Insight II/X-sight等と整って きました。このように、年々良くなる設備にあわせて、93年に甘味蛋白質であるモ ネリンの分子置換法による解析・95年に免疫反応を抑制するサイトカインである G1F(glycosylation-inhibiting factor)の重原子同型置換法による解析というよ うに、毎年とは行きませんが徐々に結果も出だしてきました。放射光に関しては、 坂部先生を初めとする放射光施設の方々に大変お世話になりながら1994年から使わ せていただいています。今年度は、放射光施設で、低温下での回折データ収集を行 おうと考えています。


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