構造生物 Vol.2 No.2
1996年10月発行

Xsightの案内 その1


三浦圭子

萬有製薬(株)つくば研究所

 「構造生物」前号のソフトウェア選定の議事録に引き続き、今回は導入されたもの の1つであるXsightの概要の一部を紹介します。

 TARA坂部プロジェクトの関係者は、X線回折データの処理は所属実験室または PFで行うこととなっていることを前提に考えてよいと想定して、まず「Densito- metry」の部分の紹介は省略させてもらいます。むしろ、測定データの中で特に 重原子誘導体のデータが構造解析に適したものであるかの評価を速やかに行うための 構成の紹介をまず行いたいと思います。加えて、統合されたソフトウェアの特徴を 活かせている部分として、PROLSQおよび水分子位置の自動検索の使用例を紹介した いと思います。

 以下に、目的別に4項目に分けてみました。

目的 0) Xsightの起動および必要なファイルの準備
目的 1) 重原子誘導体データの有用性の確認
目的 2) PR0LSQを用いた蛋白質-リガンド複合体の構造精密化
目的 3) 水分子位置の自動検索

 尚、使用したソフトウェアはXsight version1.0で、動作環境はIRIS indigo2 IMPACTR4400(150MHz,Memory192MB)で、場所は筑波大学共同利用棟A112で 行いました。

目的 0) Xsightの起動および必要なファイルの準備

 この項は、解析のどの手順を行うにしても必要な操作ですから、番号を 「0」としました。
 まず、必要なファイルおよびそのフォーマットについて説明します。

必要なファイル:Crysta1sおよびProjectsという名のファイル
内容は後で書き換えるので、Prograのdirectoryよりコピー してくると便利です。
必要なデータ:結晶学データ/空間群、結晶格子等
Xsightのmenu画面で入力します。
反射リスト/H,K,L,F,σF or H,K,L,F+,σF+,F-,σF-
フォーマットは(3I4,4F8.2)で用意することを勧めます。
測定していないデータは、F=0.00, sF=g9999.00とします。
また、R-AXISデータ(.card)はoptionで変換できます。

 Xsightの起動は、シェルを開き%msightIIとコマンドし、B1osym/msightIIを 起動させた後に、その一部に組み込まれている「Xsight」を選ぶという順番です。

(この部分の操作のマニュアルは用意しましたので、必要の際は当方までお問い合わせ下さい。)

目的 1) 重原子誘導体データの有用性の確認

 必要なデータおよびファイルは、上記目的0)に記載した通りですが、 まずはNativeおよび重原子誘導体毎に、反射リストファイルを作成しておき ます。操作手順は以下のように分かれており、その都度menu boxを選んで 実行することになっています。

Xsight/MIRのメニュー構成
[Merge_Data]
[Ca1c_Founer]
[Contour Map]
[Find_Heavy_Atoms]
[Pred1ct_patterson]
[Ca1c_Phases]
[Merge_Phases]

  1. Nat1veと重原子誘導体のデータをそれぞれ、merge,sca1eして重原子の 効果Rfを計算する。<Xmerge> 分解能毎のプロット等グラフでの確認も直ちにおこなえる。<Prostat>
  2. 1.でscaleを合わせたデータを用いて差パターソンマップを計算して 重原子位置に相当する高い亨一クを確認する。<Xfft,Xcontour> データ測定後にとりあえずチェックする場合には、ここまででもよいの かもしれませんが、ついでにほんの10分程で重原子位置の検索もできる のですから、次からのこともやってみる価値はあると思います。
  3. 非対称単位をグリッドで切って、差のCorre1ationの高いところを重原子 位置とするサーチを行う。<Xhercu1es>
  4. 見つかった重原子位置の座標を用いて差ベクトルを計算する。
  5. 差パターソンマップ上のピーク位置と4)のベクトル交点の一致を確認 する。<Xfft,Xcontour>
  6. 重原子のピーク位置の精密化を行ってRfを確認する。<Xhercu1es>
  7. その他複数の重原子についてその位置の精密化を行った後、位相を計算 する。<Xphase>

 但し、この部分のプログラムはDr.Mcree開発および提供の「XtalView」が 用いられているので、Xsightのmenu画面からの導入部分以外は「XtalView」 を使用されたことのある方には、見慣れた画面がでてくると感じられるで しょう。Xsightのマニュアルについては、当方でも準備中ですが、本年6月 にjpxta1でも紹介がありPF6Bのビームラインにも設置された阪大工学部の 井上氏の「Xta1View」マニュアルも参考にされることを勧めます。

目的 2) PROLSQを用いた蛋白質-リガンド複合体の構造精密化

 構造精密化のところで、minimizationを選択すると、menuでPROTIN/ PROLSQを実行するのに必要なファイルを入力するようになっており、 加えて、精密化のパラメーターを一部画面上で書き換えるだけで実行 可能となります。
 用いたX線回折データは、Trypsin-Benzamidine複合体結晶およびTrypsin- Leupeptine複合体結晶について当社でR-AXIS IIcで測定したものを用い、 分解能はそれぞれ2.3Aおよび2.1Aでした。
 Trypsin-Leupeptine複合体結晶は、Trypsin-Benzamidine複合体結晶をBack- sorking後、Leupeptineをsorkingすることで得られたので、いずれも構造解析 モデルとしては、同型であるPDB data(1TLD)を利用しました。
 BenzamidineおよびLeupeptineの結合パラメーターは、起動させている Biosym Programの中のBuilderで、2次元構造の入力および3次元変換を行い、 Discoverを用いてそれぞれ計算される。その結果を追加した新しいパラメー ターファイル(ideals.dat)の作成を行う。
 この操作がXsightのmenu画面の一貫とした形でできるので、やりやすい ことと、計算結果のファイルのフォーマット等を気にすることなくそのまま 新規のidea1s.datが作成できる利点があります。
 但し、このままではリガンドの座標は活性部位にフィットしていないの で、Xfitを用いてFo map,Fo-Fc mapへのリガンドフィットを画面上で確認し ながらマニュアルで行う。
 構造精密化は、新規リガンドパラメーター追加後のidea1s.datを用いて PROLSQによるminim1zationを行う。
 リガンドのマニュアルでのフィット操作は慣れるまで難しいかもしれま せん。この操作については、特にQUANTAとの比較をしてみたいところ です。
目的 3) 水分子位置の自動検索
 PLOLSQを用いて構造精密化(minimizat1on)を行った結果の構造および位相 データを用いて、差フーリエマップ計算および水分子ピーク検索を行う。
 検索の条件設定をmenuで入力後、検索実行し、結果のピーク位置は高い順に マップと併せて画面で確認でき、妥当性が確認されて決定されたところは最後に .pdb fileに追加保存できる。
感想: 
今までは同様の操作を行う為に、複数のプログラムを選んではファイル名 やフォーマットを確認しながらinput fileを作ってということを意識しながら やってきたことに比較すると、あっけないくらい簡単に計算が実行されその 結果が図で確認できてしまうという印象を持ちました。結果を出すことを 効率的に行う為には、必要に応じて使っていきたいと思います。
まだ実際に使ったことの無い方も、上記の目的Oに書いたとおりのデータ さえあれば、まずは使ってみることをお勧めします。その結果、手元の解 析環境と比較した上で、利用できる部分があれば使っていく等の判断がしや すいでしょう。
 その為に先に使わせてもらっている私が少しでもお役にたてれば幸いです。
追記:
次回以降は位相決定後の電子密度改良およびモデル構築のXsightでの 手順の構成や、新たに導入されたQUANTAを用いた蛋白質-リガンド複合体 の構造解析手順とXsightとの比較等について紹介したいと考えています。
最後にXsightのプログラムの概要を示しておきます。
  1. Xsight使用準備 (Utilities)

  2. データファイル準備 (Data control)

  3. MIR (Merge, Find heavy atom, Calc phases)

  4. 分子置換

  5. 電子密度改良 (So1vent-flattening, Water)

  6. 構造構築 (Xfit, Skeltonization)

  7. 構造精密化 (similated Annealing, Minimization(PROLSQ))

  8. 構造評価、表示 (Prostat, InsightU)

以上


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sasaki@tara.met.nagoya-u.ac.jp