1.はじめに
今年5月、TARAビームラインの実験ステーションBL6Bに新設計の巨大分子用ワイセンベルグカメラが設置された。カセットは1種類でカメラ半径575.7mm、大型IP(サイズ400×800mm)が2枚まで真空吸着可能である。この新しいカメラを使用して1個の卵白リゾチーム結晶(空間群P43212、a=b=79.6、c=38.2Å)から3種類のIPの置き方でデータを収集した。これらのデータ処理およびデータの質について報告する。
2.大型IPによるデータ測定
このカメラでデータを収集するときのIPの置き方は次の3種類がある。
a)大型IP1枚を中央に縦置きに使って測定(測定範囲:800×400mm)
b)大型IP2枚を左右にセットして測定(測定範囲:800×800mm)
c)大型IP2枚を上下にセットして測定(測定範囲:800×800mm)
IPデータはDENZO及びSCALEPACKを使って処理した。3種類のデータ測定の前に、結晶方位の決定のための2枚のオシレーション写真(0°、45°)を撮った。またワイセンベルグ写真はつぎの条件で測定した。
フレーム数: 5 振動角/フレーム: 20° カップリングコンスタント: 4°/mm 露出時間:200sec 波長: 1.00Å コリメータ径: 0.2mm IP reader: pfweis5、pfweis6
a)大型IP1枚を中央に縦置きに使って測定(測定範囲:800×400mm) DENZOを使ってバッチ処理をするためには、IPに対するビーム位置の変化が少ないことが重要である。この場合のビーム位置は表1のaにリストされているが*印の2カ所の値が大きくずれている。これは読み取りに使ったIP readerが異なるためである。バッチで処理したいときは同じIP readerを使う方が分かりやすい。もしも2種類以上のIP readerを使うときは記録をしておき、DENZO処理のコマンドファイルの中に各IP readerによるビーム位置の値を指定する必要がある。
b)大型IP2枚を左右にセットして測定(測定範囲:800×800mm) このIPセットの方法ではビーム位置が左側のIPの端にくる。各IPに3点以上のFiducial pointsが入るように考え、マークの位置は、30,20,5,0,-5,-10,-15, 20mmの6点を入れた。左に置いた5枚のIPの読み取りはpfweis5を使い、右に置いた5枚のIPはpfweis6を使った。表1のbを見るとビーム位置がよく一致していることが分かる。この場合、左および右に置いたIPは、それぞれバッチ法でDENZOの処理ができた。
c)大型IP2枚を上下にセットして測定(測定範囲:800×800mm) このIPセットの方法ではビームの位置が2枚のIPのつなぎ目にくる。そこで2枚のIPにFiducial pointsの位置を入れるためにYを10mmと-10mmにして0,5,20, 30mmにマークを入れた。表1のcに上、下のIPのビーム位置がよく一致していることが分かる。
表1.各IPにおけるビーム位置の変化(*印はIP Readerが異なる) (a,bはfilm rotation 180°, cはfilm rotation 90°とした) a bの左側 bの右側 cの上側 cの下側 x y x y x y x y x y 1. 201.872 396.881 2.321 396.931 401.174 392.750 397.927 401.846 -0.472 396.862 2. 201.792 396.978 1.855 396.797 400.844 393.045 397.993 402.662 -0.268 396.964 3. 202.287 393.337* 2.590 396.689 401.236 392.941 397.841 402.148 -0.208 397.013 4. 201.933 397.158 2.200 396.889 400.782 392.569 397.635 402.777 -0.209 397.212 5. 202.443 393.263* 2.044 396.944 401.077 392.029 397.738 403.228 -0.350 397.713
3.Denzoによる処理とCCP4システムへの移行
DENZOを使ったIPの処理は、まずオシレーション写真を使って結晶方位の決定を行った。2枚のIPを使って測定した場合、例えば左右置きの場合、左のIPは pfweis5、右はpfweis6と常に同じ読み取り装置を使うとビーム位置がほとんど同じになり、左右のイメージファイルすべてをバッチで連続処理することができる。また異なるIP readerを使ったイメージファイルが混ざっているときは、個々にビーム位置を指定しておけば連続処理も可能である。DENZOの使い方についての注意点は富崎氏の書かれた詳細な説明が構造生物2巻1号にあるので参照してほしい。次の処理のためSCALEPACKで処理したデータをCCP4のmtzファイルに変換するコマンドファイルをここに載せておく。
#!/bin/sh # rotaprep HKLIN /usr3/denzo/lys1/x1/ly1.sca \ HKLOUT tmp.mtz << EOF_1 # Lysozyme TITLE Lysozyme INPUT SCALEPACK SYMMETRY 96 BATCH 1 END EOF_1 # sortmtz HKLOUT tmp1.mtz << EOF_sort # sort keys H K L M/ISYM BATCH # input files tmp.mtz EOF_sort # agrovata HKLIN tmp1.mtz \ HKLOUT merge.mtz \ ROGUES tmp.rog \ << EOF_agro intensities integrated batches 1 inscale 1.0 intmp 0.0 anomalous all TITLE ly1 EOF_agro # truncate HKLIN merge.mtz \ HKLOUT ly1.mtz \ << EOF_trunc TITLE LYSOZYME labout f=LY1 sigf=SLY1 dano=DLY1 sigdano=SDLY1 nresidues 129 EOF_trunc # rm tmp.mtz rm tmp1.mtz rm merge.mtz
4.データについて
データは1枚置き、2枚置きの比較をする観点から1枚置きのデータが極端に欠けることのないようDENZO処理の分解能は1.6Åまでとしたが、表2から分かるように2枚置きの場合、1.6Å分解能付近のデータは90%が集まっており、3σ以上のデータも77%あることからさらに高分解能のデータを集めることができることが分かる。20〜1.6Å分解能でのa、b、cに対するそれぞれのRmergeの値はは4.3%、4.0%、4.5%であった。
表2. 20〜1.6Å分解能の各シェルでのcompleteness IP1枚(縦置) IP2枚(左右 IP2枚(上下) resol(Å) N %comp %>3σ N %comp %>3σ N %comp %>3σ 7.02 147 59.6 98.6 133 54.8 98.5 155 62.1 100.0 5.02 350 91.9 100.0 334 89.0 100.0 348 91.5 100.0 4.11 433 92.6 99.1 414 89.4 99.5 427 90.9 99.8 3.56 533 98.0 99.4 512 95.6 99.6 525 96.8 99.8 3.19 602 98.5 99.7 587 97.4 99.7 601 98.9 99.2 2.92 638 96.0 98.1 634 95.9 98.1 660 98.7 98.5 2.70 662 93.2 98.0 678 95.4 98.4 690 96.7 97.8 2.53 683 90.5 99.0 704 93.0 99.1 725 95.4 99.4 2.38 707 88.3 98.2 770 95.6 98.7 782 96.7 98.0 2.26 746 88.8 97.2 810 95.6 98.3 819 96.6 97.4 2.16 783 89.1 96.4 835 94.5 96.6 853 96.0 96.1 2.06 809 88.6 96.8 870 94.5 96.9 897 96.7 97.7 1.98 823 86.7 94.9 893 93.5 96.1 922 95.8 94.9 1.91 818 83.2 92.9 921 93.4 96.1 938 94.0 94.6 1.85 836 81.9 92.2 950 93.1 93.7 1002 97.4 94.0 1.79 828 78.9 90.0 996 94.5 93.0 1005 94.8 91.3 1.74 837 77.1 85.2 1024 94.4 89.4 1013 92.8 87.6 1.69 827 74.1 82.6 1055 94.5 86.4 1038 92.6 86.9 1.64 800 70.0 80.6 1056 92.3 84.0 1036 90.2 81.0 1.60 792 67.2 76.0 1072 91.2 78.0 1064 90.3 77.2 Total 13654 83.4 92.7 15248 93.4 93.6 15500 94.3 93.1
BL6Bの巨大分子用のワイセンベルグカメラで収集した3種類のデータと生命工学工業技術研究所の原田一明氏がNONIUS社のFASTで測定したデータ及びIPデータ間の一致度を見たものが表3に示してある。1σ以上のデータ間で各シェルでのR値を比較するとFASTとのデータの合いは6〜7%であり、IPデータ間の処理による誤差は1%位であることが分かる。
表3.FASTおよび3種類のIPの置き方で測定したデータセットのリゾチームの比較 20〜1.6Å分解能の各シェルでのデータ数(N)とR−factor( R=Σ|Fo1-Fo2|/ΣFo1) FAST-a FAST-b FAST-c a−b a−c b−c resol(Å) N R N R N R N R N R N R 7.07 30 0.046 30 0.046 33 0.040 29 0.021 32 0.027 32 0.022 5.00 258 0.036 239 0.041 258 0.040 243 0.020 261 0.025 242 0.017 4.08 389 0.038 379 0.042 386 0.043 392 0.017 401 0.022 392 0.012 3.54 483 0.043 455 0.041 472 0.044 456 0.014 475 0.019 451 0.010 3.16 592 0.044 580 0.043 590 0.043 583 0.012 596 0.018 582 0.010 2.89 650 0.048 636 0.046 665 0.047 631 0.011 650 0.016 636 0.009 2.67 661 0.049 669 0.050 688 0.049 650 0.012 660 0.016 668 0.011 2.50 692 0.050 712 0.048 733 0.049 677 0.011 693 0.015 712 0.010 2.36 727 0.054 777 0.053 801 0.054 712 0.014 727 0.018 775 0.013 2.24 753 0.054 810 0.054 828 0.055 736 0.016 754 0.020 809 0.017 2.13 780 0.063 844 0.064 863 0.066 770 0.020 785 0.026 846 0.022 2.04 803 0.060 852 0.061 884 0.065 799 0.023 818 0.031 871 0.026 1.96 754 0.071 831 0.072 857 0.081 814 0.027 833 0.041 908 0.038 1.89 760 0.082 849 0.083 881 0.095 833 0.037 854 0.055 937 0.049 1.83 721 0.089 841 0.090 883 0.111 825 0.043 851 0.068 969 0.061 1.77 732 0.112 881 0.122 901 0.154 831 0.063 841 0.097 998 0.091 1.71 730 0.124 891 0.136 890 0.166 832 0.074 827 0.114 1018 0.107 1.67 732 0.156 897 0.182 892 0.211 820 0.107 806 0.129 1030 0.119 1.62 704 0.152 877 0.177 856 0.202 797 0.107 781 0.135 1038 0.130 1.58 728 0.178 911 0.202 861 0.225 795 0.128 765 0.155 1026 0.154 Total 12679 0.062 13961 0.067 14222 0.071 13225 0.026 13410 0.035 14940 0.031
このようにBL6Bに設置された巨大分子用ワイセンベルグカメラ、IP読取装置は非常に精度の良いデータを収集できることが分かった。今回は通常の方法でデータを収集、処理した結果を報告したが、今後種々の結晶について、さらに高分解能データの収集処理などのノウハウを構造生物に投稿して頂き、より質の良いデータを集めることができるシステムを作っていくことが望まれる。尚、リゾチームの結晶は鈴木守氏(PF)により提供された。