構造生物 Vol.2 No.2
1996年10月発行

TARAのビームラインを使用して


片山直子

山之内製薬株式会社創薬研究本部

 待ちに待ったビームタイムの日がやってきた。Y製薬会社のX線チーム3人は、リー ダーKを先頭に、おそるおそるBL-6Bへと足を踏み入れた。この日は、とにもかくにも 「良い」native dataをとって帰るという決意での12時間エントリーである。

 「結晶と、DATとフィルムバッチがあればなんとかなりますよね(注1)」  「一応『構造生物』のPFで良いデータをとるには特集を持っていこうぜ」 と、さんざん大騒ぎしてやってきた一行、まずは朝の入射待ちの間に、親切な助っ人 さん連の説明を受けた。「かなり使いやすくなっていますよ。ビームも強いし。ただ、 ビームにむらのある可能性があるので、oscillationの回数は、多めにしてくださいね(注 2)」「あと、IP readerにトラブルがあったら、無理はしないでスタッフをすぐに呼 んでね。」

 持参した『構造生物』vol.2 No.1には、かなり詳しいビームラインの説明が写真入り で掲載されていたが、実際に見て触ってみると、なるほどこれは使いやすそう。IPカ セットは巨大だけど、据え付けたから交換する必要もないし、IPを真空でカセットに くっつけてからカセットを立てる操作には力も身長もいらない!女の子だもんといっ てさぼれた黄金の日々よ合いずこ?ってとこか。ポラロイドカセットの装着も、ガイ ドに沿って差し込むだけの簡便さ。結晶のセンタリングも、CCDカメラのモニターで くっきり確認。いちいちあげているときりがないが、これまでの坂部カメラによって 培われたノウハウが惜しみなく使われている。

 「こういう細かな心遣いもいいよね一」放浪癖のあるゴニオメーターヘッドやねじ 回しも、きっちり居場所が決まっている。IP initializer周りにも手袋や吸盤、エタノールが置かれており、「そうそう、これは丁寧に扱わなくてはいけないものなのよ(注 3)」。

 さて肝心のデータ測定は?

 測定操作が簡便になった分、律速は大型IPの読み取り時間。また、IP読み取り機は 長時間こき使うと読み取りに失敗することがあり、そのデータを取り直すはめになる ので最後まで油断ならない。12時間のビームタイムだと、3セットのデータが取れ ればいい方なのではないか。

 今回の測定では、大型IPを一枚、中心から少しずらしてカセットに置き、高次の反 射を収集出来ようにして測定してみた。分解能の高い結晶だったので、二軸方向から の回折データを取った結果、最初の決意通り「良いデータ」を持ち帰ることが出来た。 実験室で測定したデータと比較すると、格子定数がやや大き春結晶だったこともあり、 分解能は23から1.8A,R-mergeも10%から9%へと改善された。大満足である。

 最後に、お世話になったスタッフの皆様と助っ人の方々に感謝します。ありがとう ございました。

注1) 本当になんとかなってしまいそうなくらい親切な装備がされているが、あんまり甘えてはいけませんね
注2) 10回以上を推奨されました。
注3) 一枚何十万というお高いものなのでしょう?


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