構造生物 Vol.3 No.1
1997年2月発行

創薬におけるSBDD


佐藤明啓

藤沢薬品工業滑盤技術研究室

 大阪の歓楽街、十三(じゅうそう)を抜けてバスで約I0分大阪市淀川区加島に社章のFパターンを付したチョコレート色のビル この中に我々基盤技術研究室(基盤研)のSBDDグループがあります。「創薬における基盤技術を確立し、オール藤沢のR&Dに貢献する」ことをミッションとして昨年設立され、その中で我々SBDDグループは、X線2名、NMR2名及び計算化学l名の合計5名の研究員で、新しいドラッグデザイン技術(Structure-Based Drug Design:SBDD)の確立を目指して日夜研究を行っています。

 近年、創薬の方法論はランダムスクリーニングから始まってSBDD或いはCC(Combinatorial Chemistry)と種々の新しい方法論が展開されており、特にSBDDはその重要性が増してきています。X線結晶構造解析やNMRを用いて、リード化合物と標的蛋白とが実際に結合した様子(複合体の3次元構造)を調べてその構造情報を元に薬物のデザインをする。デザインした化合物を使って再度、複合体を作り構造解析を行うというサイクルで、言うまでもなく実際の結合状態の変化を確かめながら薬物の設計戦略を練ることができることが特徴です。

 米国では既に80年代後半からこのような研究が行われており、文献上の成功例が数例あり徐々に増加しています。このようなアプローチが現実に可能になったのは、遺伝子工学(クローニング/大量発現/13C、15Nの同位体ラベル)、結晶学(X線/放射光の利用)及びNMRの高磁場化(750/800/900MHz)等の進歩によるところが大きいと言えます。このような背景を基に、藤沢におけるSBDD(F-SBDD)戦略の基本的フローチャート(左図)に基づいて、現在我々はX線或いはNMRのメリット、デメリットを考慮して両者を有機的に結合させ、ペプチド・タンパク質の立体構造決定を行っています。これらの研究に用いる装置については、X線回折装置はリガクRAXIS-Uc(イメージングプレート)及びAFC-5R、NMR装置は7年前に導入したBruker AMX-500(FG、三重共鳴付き)並びにコンピュータ関係は、解析用と計算用の合わせてIRISが7台あり、QUANTA/CHARMm.X・PLOR.DlSCOVER/INSIGHTU,SYBYL.FELlX.PCPS等の解析、計算ソフトを導入している。このようにハード面・ソフト面共に十分とは言えませんが一応整っています。あとは成果のみ(?)と言いたいところですが、なかなか種々の問題があって思うように進まないのが現状です。また、これらの技術的な進歩も早く、情報をいち早くキャッチするためV.S.0.P.会(お酒飲みの集まりではありません)と称して、メンバー1人1人に数種類の雑誌を割り当て、毎号内容を全てチェックし関連論文を皆に紹介するという雑誌会を週1回実施し、X線、NMR及びCADD関連の最新情報の収集に傾注しています。TARAプロジェクトには坂部先生のご好意により当初から参画させていただいており、1994年から放射光を利用したタンパク質のX線結晶構造解析を行っています。今年度4月からは正式にメンバーとなり、既に何度か測定させていただきましたが、結晶の問題(弱い、小さすぎる等)或いは結晶形の間題等で解析に成功したのはエラスターゼ複合体のみであります。現在は、標的蛋白の大量発現に重点を置いており、この秋からその蛋白を調製中でありますが、今後は、標的蛋白或いは薬物との複合体の結晶を次々と作り、放射光を利用して多くの成果を出したいと考えています。坂部先生を初め、TARAプロジェクトのメンバーの方々のご協力を宜しくお願い致します。


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