構造生物 Vol.3 No.2
¶1997
7月発行

TARA坂部プロジェクト専用可搬型プレハブハウス の2階建への改造と利用形態


坂部貴和子


国際科学振興財団専任研究員


これまでに筑波大学先端学際領域研究センター(TARA)坂部プロジェクトにおいて進められてきた重要な研究課題は(A)PF内にTARA専用放射光ビームラインBL6B を建設すること及び(B)PFでの放射光利用実験用を効率的に行い且つ緊急性に対処できるようPFリングの傍にTARA坂部プロジェクト専用可搬型プレハブハウスを設置する ことであった。

ここでは(B)について、このほど3期工事により3式分のプレハブハウスが2階建 に改造されたのでそれを中心に述べる。なお、1期および2期工事については既に坂部 教授が、構造生物3152-54頁に、また3期工事についの概略は本号29頁に掲載されているで参照させたい。

ここでは設置および改造の経緯、利用目的、並びに完成したプレハブハウスの利用形態を
(a)着工前に行われたアンケート調査
(b)平成8年度2期のビームタイムにおける計算機及び仮設仮眠室の利用状況
などに基づいて述べる。

可搬型プレハブハウス設置および改造の経緯と利用目的

可搬型プレハブハウス(プレハブ)の設置はまずプレハブ1(A)つまり計算機室から始まり、そこにはそれまで筑波大学坂部研究室に設置されていた各種の計算機が移設された。そして昨年秋のピームタイム時には関係者の方々による、試験的な利用が開始された。その後プレハブ2(B)3(C)の設置が許可され、本年2月末には I階が完成した。しかし、それだけの面積では着工前に行われてアンケート調査の結果に答えるのには面積的に極めて不十分であった。そこで2階に改造することを申請したところ、幸いにも許可が降りた。そこでプレハブハウスを当初の計画に近いかたちで2 階建に改造することができた。予算的には、1階は筑波大学の委任経理金で2階は国際科学振興財団への寄付金によりそれぞれ設置され、2階は完成後に筑波大学に寄付される運びとなっている。

プレハブハウスの設置にあたっては研究員及客員研究員全員を対象にアンケート調査が実施された。財政上の制約と出発時に最後までの見通しが立たなかったことなどもあ つて、完成したものはまだ改善を必要とする部分もあるが、利用者の立場に立って、最低限の要望を満たすよう設計されている。

居室の部屋割についてはTARA坂部プロジェクト総会で決定されるが、その前に、設計及び利用についての概念を紹介する。

まず、設置の主目的は最初にも述べた共同利用実験で宿舎の予約ができない研究員、 客員研究員及び研究協力者の方々の仮眠室確保である。本プロジェクト研究は9つのサブグループ(構造生物1137-40)により遂行されている。 そのうち6 ループは単色を利用して蛋白質結晶構造解析を行っており、研究対象としている生体高分子の種類及び機能などにより大別されている。このうち特に競争の激しい分野は医学的に重要な蛋白質の結晶構造解析である。 本研究プロジェクトのメンバーの約6割の方はこの分野の研究を手がけておられる。 特に企業メンバーの殆どの方はこのサブグルー プに属しておられることから、この分野の研究を進めることは本プロジェクトにとって 大変有意義である。しかしながら、我国のこの分野の研究は諸外国と比べると必ずしも進んでいるとは言えないし、特に競争力においては劣っていることを認めざるを得ない。そこでこの分野において競争力をつけ、世界をリードできることは本研究プロジェクト にとって最も重要でかつ緊急性が高い課題の一つである。このように緊急性が高くしかも競争の激しい分野で勝ち抜くには、まず結晶ができたらなるべく早い時期に放射光を利用した世界的にも高い評価を受けている巨大分子用ワイセンベルグカメラ使ってデータ収集が可能な体制を作ることである。 この体制が確立されれば、この分野の研究者にとっては大変有利である。

PFにはこのピームラインの他に2本の蛋白質結晶構造解析用のビームラインがあるが、 研究所の共同利用宿舎が2ケ月以上前でないと満杯になって予約できなくなるため、ピー ムラインでの実験日は遅くとも2カ月前までに決定される。しかし、蛋白質結晶の作成は原料が一定しないこと、調製の過程が複雑なことなど種々の要因により、大きさまで 考慮すると再現性は大変低い。さらにその原因を特定することが特に難しい。そこで、 結晶が出来なかったり、出来ていても小さかったりしてこれまでの方式では与えられたビームタイムをうまく利用できない場合が少なくない。この問題を解決するため本研究プロジェクトでは新たにインターネット上にホームページを開設してオンラインで予約、解約が共同利用実験者自身によって行える方式(佐々木教祐本紙1196)が採用され、実験日の13日前までの予約を可能にした。この方式の導入により、研究者が実験日を変更したり、思いもかけない時に偶然新たな結晶が出来ているのに気がついたりした時にもデータ収集の時間配分を得ることが可能になった。 本プロジェクトのメ ンバーは世界に広がっているが、今のところこの予約システムは国内のメンバーにしか 適用されていない(国外のTARA坂部プロジェクトのメンバーについては坂部知平が入 力を代行している。)。 このような予約が出来るのは利用期問の約1/2で出資者に高 weightがかかっていることから大学関係者にとっては予約をとるのもまごまごできな いのが現実である。このシステムの運用を円滑に行うため、仮眼室を作ることがTARA 坂部プロジェクト専用プレハブハウス設置の最大の理由の一つであった。また仮眠室の ベッド予約もインターネットからできるようになっている。

プレハブハウスのもう一つ利用目的は放射光利用実験の効率を高めて、できるだけ完壁なデータセットを作ることである。 蛋白質結晶構造解析のための巨大分子用ワイセンベルグカメラを使ったデータ収集では1つの結晶を使って1軸周りの1セットのデータ を収集するのに10枚から50杖、時には100枚のイメージングプレートを利用してデータを記録する必要がある。 スタートの時点では結晶が満足できる反射能をもっていても一般にX線照射により損傷を受け反射能が弱まる。 弱まり方は最初にX線照射をした時からの時間経過による。そこで、データ収集をしながら読み取ったイメージングプレートのデータのチェックが行えることが望ましい。残念ながらBL6Bの場合IPから強度データを読み取りながら、読み取り装置のコンピュータを使ってすべてのフレーム をチェックすることはできない。そこで読み取ったデータを別のコンピュータを使って別の実験者がチェックすることが必要となる。実験ステーションにもコンピュータがあるのでそれを使ってもできる。 しかし、実験ステーションのコンピュータは実験が終了すると、次の実験者に優先権が移る。 本プロジェクトにより取り入れた12時間シフトの 体制では時間一杯までデータ収集に使う研究者が多く実験終了後すべてのデータを100Mbpsの高速ネットワークを使ってIP readerのコンピュータからプレハブハウスにある データサーバに転送しておいて、データ解析及び場合によってはデータ処理まで行うことは実験を成功させるのに大変有効である。そして必要に応じてすく、1次のピームタイムの予約を行うこともできる。また、1セットのデータ収集は結晶を回転しながら行うが、 特定方向のデータは結晶のモザイクが大きいため、スポットが伸びていて取り直しが必要であったり、また実験中にカメラが動いても気が付かず撮影し続づけた経験のある人もいると思う。 前にも述べたように蛋白質結晶の再現性は高くはないし、一般に次のビームタイムは半年あるいは1年後にしかもらえないので、その時その時にベストなデータセットを作ることが放射光利用実験においては最も重要なことである。 その意味からプレハブハウスに設置されたコンピュータは大変重要な役割を果たしている。 ただ、この目的のみからみれば、コンピュータの設置場所は筑波大学でもプレハブでもよいように思われるかもしれない。 しかしデータの量が膨大なためネットワークを使って転送する距離は短いことが必須である。また、ユーザは実験終了後データをDAT8mmテープなど の媒体に移して持ち帰るため、実験ホールに隣接するプレハブの計算機は利用者にとっ ては大きなメリットである。実験ホール内に沢山端末を設置してということも考えられるが、みれば分かるように装置が所狭しと設置してあるし、ホール内は禁煙、禁飲食である。プレハブにはくつろぐ部屋もあるし、なによりも良いことはデータサーバに移したデータが完全にバックアップされることである。

U.プレハブハウスの利用形態

2階建プレハブハウスを正面から見たところ、2階の特徴的なトレーニングホールと和室(談話室)を写真1に示した。 図1には1(a)2(b)の間取りに部屋の名称、 部屋番号、禁煙、禁飲食などのサインが入っている。 これらはインターネット上で見えるようにしている。冷暖房装置はすべて、各部屋に設置されている。 1階の間取りと部屋割については1期及2期工事終了後すでに本紙に掲載させたが、 2階の完成に伴って変更したものもある。

利用形態は(i)着工前に行われたアンケート調査(ii)平成8年度2期のビームタイ ムにおける計算機及び仮設仮眠室の利用状況(iii)1階会議室の利用状況などを参考に して決定した。

(1)仮眠室

アンケート調査によると最高20人が収容できる宿泊施設が必要であるとの回答があっ た。また、部屋については全員がバストイレ付の個部屋を希望され、2段ベットは不評であった。

昨年の秋のビームタイムの折には、まだ1期工事しか完了していなかったため、計算機室に仮設ベットルーム3室を設け、そこに2段ベットを設置しテスト的な利用を行っ た。利用記録によると、1度に2人が同室を利用されたことはなく、また上段と下段が 交互に利用されたようである。 大きな苦情は出なかった。 ただ計算機室内に仮設の仮眠 室を設置したので、空調が計算機に合わせてあったため部屋全体が乾燥して、そのため 風邪気味の方の中には喉を酷く痛められた方もあった。また、部屋が狭いので、特に上段のシーッ交換は困難であった。そこで2階の改造にあたって仮眠室を少し大きく設計し(これまでの4部屋を3部屋にした)、そこに3台の2段ベットを移した。今期はビームラインも増えていないので、利用状況は先期と大幅に変らないことを予想して仮眼室は3部屋とした。ここには最高6人収容できる。

現在、PFから放射光利用実験に対して支払われる出張旅費は1日の実験あたり1人に限られている。そこで本プロジェクトが発足するまでは、特にPFから遠い距離にある大学の研究者の場合旅費の制限から出張する人が代表で研究グループ全体のデータ収集 をして帰るケース多くあった。

幸い本研究プロジェクトでは実験のための旅費の援助が認められているので、PFでの実験に来ることができる研究者の数は増えた。 そこで、大学院生の方でも急に結晶が出来た時、運が良ければ、PFに来て自分で回折写真を撮ることが可能になった。こんな時仮眠室が空いていなくとも談話室を利用することができる。 特に学会発表や学位論文作成の場合には時間的に大きく制約を受けるので、旅費の援助は大変有効である。 自分で実験すれば、実験が成功しなかったとしても納得がいくが、人に頼んでうまくいかなかった場合には悔いが残る。 大学院の方から、そのような非常時には個室でなくてもよいから仮眠できる場所がほしいとの意見が出たので2階に和室を作った。ここにも緊急時には最高8人まで寝ることができる。 そこで現在の状態では最高14人収容できることになる。

アンケートでは仮眠室はバス、トイレ付きの個室がよいとのご意見が多数を占めたが、その他に居室や計算機処理などの共通部屋の要求もあった。 そこでできるだけ多くの要求を取り入れるため、経済的な理由から仮眠室にバス、トイレを付けることは止め た。また、2期工事の開始時点では、2階の改造の承認が得られる見通しはついていなかった。そこで、1階の設計にあたっては、最低必要なものを盛り込んだ。そこでトイレはPFのホールにあるものを利用することにした。 幸い2階の改造が認められたので、 トイレをつけた。

(2)トイレと洗面所

トイレはこれまでPFの実験ホールのトイレを利用していたので、特に雨の折りには大変不便であった。今回の改造で2階に男子用と女子用のトイレを設けたのでこの問題は解決された。
洗面所は男子用と女子用トイレにそれぞれ付いている。
また、1階の階段下にもある。

(3)居室

居室としては研究室を1階に1部屋、2階に4部屋、また客員研究室は1階に8部屋、 2階に6部屋作った。研究室は二階の213の部屋を除いて什器を整備した。213室は個別的な討論、外国からの研究者の利用を予定している。

(4)共通に利用できる部屋

共通に利用できる部屋としては、1階に計算機室、会議室、資料室、12階にトレー二 ングホール、準備室を設けた。 プレハブハウスは原則として禁煙であるが、喫煙室を決めるべきだとの意見もあり、1階会議室では喫煙を許すことにした。 喫煙の際には必ず換気扇を回すことを忘れないようにして頂きたい。 この部屋を選んだ理由は最も人がいる確率が高いので安全性が高いことを考慮した上のことである。 なお、火災報知器は各部屋廊下などに設置されている。 非常階段は2階裏口にあり内側から開閉が可能である。

(a)計算機室

計算機室の計算機については既に名古屋大学医療技術短期大学部の佐々木教祐先生が本紙(2272-74)に書かれているのでここでは触れない。 特に変わったこととしては、研究員、客員研究員の方のために専用のロッカーを計算機室内に設置されたことである。 計算機室内はゴキブリがでたり、カビが生えないよう特に禁煙、禁飲食にした。KEKの内線電話(0298-641171内線3719宮本)が計算機 室内にある。 所内ネットワークは計算機室内の計算機には繋がっている。

(b)会議室

1階の会議室は5-6人の規模の会合を行うのに適している。しかし、10人を超える会議には狭いので、この場合は2階のトレーニングホールを使うのがよい。 ここではデスクを囲んで20人程度の会議を行うことができる。これまで、1階の会議室を使って、日本学術振興会の未来開拓推進研究プロジェクトの研究打合わせを毎月行ってきたが、13人程度集まるので特に黒板を使っての討論はやりにくかった。 そこで7月の会合にはトレーニングホールを利用した。 この他構造生物の編集委員会も開かれた。これはメンバーが5名であったため、問題はなかった。

(C)トレーニングホール

トレーニングホールの利用については大まかに次の3種類を想定して什器を選定した。 1は計算機に関する講習会である。 すでに菱化システムの狩野さんがXsightバー ジョンアップ説明会を開催された。 詳しいことは本号53頁に万有製薬の三浦圭子さん が書いておられる。 この時には19名集まった。 概略の説明は1階会議室を使って行わ れ、実演は2台のSGIの計算機使って計算機室で行われた。 実際に4人に1台のデスクが用意されており,24人規模の講習会は今後はトレーニングホールを使っても行うことができる。椅子だけで良いなら35人程度まで収容が可能である。 また、トレーニングホールのデスクは計算機も設置できるよう耐荷重のものを選んだ。 そこで外部から計算機を持ち込んでやるような実習もできるようになっている。 210人から20人規模の会議である。 机のコーナーは90度であるので4脚の机を合わせその上で設計図などを開いての議論には適している。

その他、講演会やセミナーを催すこともできる。ビームタイムの折には外国からも蛋白質結晶構造解析を行っている多くの共同利用研究者が実験に来る。 これらの方々にお願いして、セミナーを開催するのも良いかと考えている。 3は共同部屋としての利用 である。 例えばビームタイムの時にはデータ整理、データ解析などが出来るように机や 椅子の配置をアレンジすることが可能である。トレーニングホール用の椅子は倉庫に格納されている。 スクリーンが常設されており、講演にはOHPが利用できる。 実習の準備や講師の控え室として準備室を利用できる。

(d)資料室

1階会議室の隣には資料室があるが、この部屋はいつでも利用できる。

(e)談話室

2階にある和室で会議、食事、懇談、緊急時には仮眠もできる。

(f)事務室

1階の入り口には事務室がある。ここには文房具、ファックスが置かれている。

(6)その他の設備

お茶やコーヒを飲む人、軽食を取る方のために1階の給湯所には冷蔵庫、レンジなども設置されている。 また2階には厨房を用意しそこに食器自動洗浄器を置いた。 準備室では空いていれば軽食をとることができる。男子トイレの中にモップ洗い場が設けられている。


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