I. はじめに
平成8年より5年間の計画で筑波大学応生教授坂部知平が代表者となり日本 学術振興会未来開拓学術研究推進事業の受託研究(プロジェクト番号JSPS-RFTF96R14501 )として蛋白用データー収集システム完全自動化の開発手を行っている。 平成9年3月坂部知平は筑波大学を定年退職したがこの研究は 筑波大学TARA客員研究員として続行することが決定された。従って本誌に学 振未来開拓という項目を設けて頂き、本研究の報告を行う。今回は本システムの 開発思想を主として紹介する1,2)
U. 自動化の必要性
高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所放射光施設(旧称高エネル ギー物理学研究所・放射光実験施設)には現在坂部等が開発した巨大分子用ワイ センベルグカメラ及び大型イメージングプレート(400x800mm)読取装置IPR408:0 が設置され多大の成果を上げている。1996年前期は10ケ国、137プロジ ェクトに達しその内48プロジェクトは海外からのものであった。既に400 種類以上の蛋白質の解析データが収集され、多くのものが解析されている。上記 のデータ収集システムは精度良く、高分解能まで迅速にデータ収集出来るため年 2日しか取れないビームタイムに高価な旅費を払っても海外からデータ収集に来 るのである。測定速度は結晶の良否、分解能、等によって大きく異なるが、およ そ2-3時間で1軸回りのデータが収集出来る。しかし、此のデータ収集システ ムは自動化されていないため、カメラを操作する人、イメージングプレートを運 ぶ人、更に読取装置を操作し、その後そのデータをメディアに移す人等最低8人 が必要である。このほか24時間以上連続的に実験するためには交代要員も必要 である。
イメージングプレートを用いた自動回折計は既に市販されているが読取時間が 長く放射光のように強力な光源に対しては極めて効率が悪い。又これらはカメラ 半径が短く、しかもヘリウムパスが装備されていないためバックグランドノイズ が大きい。また格子定数の大きな結晶の高分解能のデータは収集できない等致命 的な欠点を持っている。海外ではこれら市販のものを放射光と組み合わせて使用 している場合が多い。測定者にとっては楽であるが、効率が極めて悪く、精度も 十分とは云えず、特に格子定数の大きな結晶に対しては全く不向きである。そこ でPFに押し掛けて来るわけである。 精度等を損なうことなく自動化する一案3)は1991に発表したが、その方法 では充分なデータ収集速度が得られないため実用化は行わなかった。今回開発す る装置は上記の欠点を全て解決したもので全く新しいアイデアに基づく高性能の システムである。
皿. アイデア及び有効性
本装置は結晶の取り付け、結晶の軸立て、へリウムチェンバーの装着、測定条 件の設定等は手動で行うがその後は自動的にデータを収集出来るものである。
本装置は大別すると、モノクロメータを含む回折記録部、搬送部、IP読取部、 消去部及び架台部から構成される(図1、図2参照)。
本装置の特徴は円筒型カセットの内側に半径400mm、軸方向450mm の有感面積を持つイメージングプレート(IP)が貼ってあり、且つ円筒の周り に10度間隔で1×10mmの入射X線用の穴合計36個開けたカセットを2個 製作する。これらの穴を長方形にしたのはスクリーンレスワイセンベルグ写真の 撮影を可能にするためである。図1に示したスクリーンにより円筒形カセット 全面に貼ってあるIPに1ショット毎に記録される開口角を決めることが出来る。 このスクリーンを上下非対象にセットする方法をAsymmetric setting(AS)、 対称にセットする場合をSymmetric setting(S)と定義し図8及び図4に示し た。(360度/開口角度)が1個のカセットで記録できる最大ショット(画像) 数である。表1に波長1.0AのX線を使用した場合の26角度、1カセット当 たりの最大画像数、セッティングのタイプ及び円周方向の分解能の関係を示した。
図5には波長1ÅのX線に対する2θ角と分解能に対する記録可能な数をグラフ で示した。この絶対的な数量は格子定数などにより異なるため相対的な量で示し た。図中点線のカープが理論的な全反射数である。波長1Åに対する、円筒軸方 向の分解能の限界は1.89Å(これは円筒方向を500mmに設定した値であ るが、この大きさのIPが製作不可能であることが判明し450mmに修正した。 その場合の限界は2.04Åである。)であるから、その場所を点線で示した。 図3及び図4を参考にして目的に応じた条件設定を行い、データ収集を行うもの である。例えば多くの解析は2.6Åの分解能で充分なため、カセット開口角を ASセッティングの場合は20度に、又同価な反射を多く記録し平均化で精度を あげれるSセッティングの場合は40度にセットしてデータを記録する。この場 合、前者ではカセット1個当たり18画像、後者の場合でも9画像記録できる。 即ち、18回或いは9回記録した後にカセットをIP読取部に移しカセットを 回転させながら円筒軸方向に移動させ高速読取を行う。この間消去を終了したも う1つのカセットを回折記録部に移動させ記録を開始する。
高速読取部には(最 低)5個の読取ヘッドがあり等間隔に配置されている(この間隔を何処まで狭く 出来るか現在検討中)。画素サイズは0.1x 0.1mmであるため、カセット が900回転すれば読取を終了する。1秒間に2回転させると7分80秒で読取 を完了する。その後カセットを消去部に移動させ消去を行う。消去に6分間、 1回の搬送を2分、読取の全行程に余裕を見て10分を要したとする。図6に示 したように回折を記録する時間(今の例では18回又は9回露光するまでに要す る時間)が14分以上ならば回折記録部が空いている時間は搬送時間のみである。 即ちこの場合、読取及び消去は露光及び搬送時間中に処理できることになる。従 って1サイクルに要する最小時間は18分である。先程の例ではASの場合1カ セット当たり18ショット記録できるので、1分/画像になる。これは人海戦 術で行っている現在より、1桁以上速くしかも1人で測定が出来るため極めて能 率がよい。しかもカセット半径が400mmあるので、格子定数は500Åまで 測定可能であり、事実上無制限といえる。また測定の誤差の原因となるバックグ ランドノイズはカセット半径の自乗に逆比例するため、この様に大きな半径を持 つカセットは精度を上げる上でも極めて有効である。更に、空気散乱によるバッ クグランドノイズはヘリウムパスを設けることにより極めて低くなる。
W. 予想される主な問題点
我々は既に単一読取ヘッドによる大型IP読取装置(lPR4080)を開発し、これ はフォトマル1本でダイナミックレンジの直線部が2.5X105あり、しかもX線のフォトン数にして1-2フォトンが検出可能で有ることを確認している4)。これら の経験を活かし高速高精度高分解能の全自動データ収集システム開発するが、こ の開発には下記する多くの問題を解決する必要がある。
1. カメラ部の問題点
2. 高速化のため読取ヘッドを5本以上にするがこの際生ずる問題点として