構造生物 Vol.3 No.2
1997年7月発行

研究室紹介


伊藤晋

中外製薬株式会社

バブルの崩壊に際して他業種ほど影響を受けなかった製薬業界も、人口の高 齢化にともなう医療費の圧縮という社会的要請と研究開発費の巨額化の前に企 業経営戦略の見直しに直面している。欧米の巨大製薬会社すらR&D費負担に耐 えられずに合併の道を選ぶ大競争時代にあって、日本の製薬会社も生き残る道 をどう選ぶのかという決断を迫られている。

そのような時代を背景として中外製薬は抗体工学、発生工学等と並んで SBDDを重点技術領域に設定し、限られた資源を集中する方針をとりつつある。 構想としては10年近く前からあったのだが、実際の作業が始まったのは3年前 の春からである。しかし表にまとめたように、この間に整備した設備は国内製 薬会社の中で最高のレベルにあるといっても言いすぎではないであろう。これ らのコンピュータは高速基幹LANで結ばれたスイツチングハブに接続され、フ ァイルサーバーにおかれたユーザーのディレクトリーをNFSを介してマウン トしている。一昨年から進められていた富士御殿場研究所の増設工事がこの3 月に完成し、結晶構造解析実験室も拡張された。

現在1つのプロジェクトで阻害剤を取り替えた酵素の構造解析を毎週1構造 のぺースで行っている。またもう1つのプロジエクトでは分子置換法による構 造解析が成功し、これも阻害剤の入った構造解析を行いつつある。1年後にはこ のペースを1週間に3構造まで上げたいと考えているが、設備だけからいうと 毎週15構造までは可能であろう。実験に使用する蛋白質サンプルの確保には苦 労してきたが、ようやくmolecular bio1ogistやprotein chemistがプロジェク トに加わるようになり、いくつかのプロジェクトでは必要サンプルが組織的に 提供されはじめている。

このようにインフラが整いつつある中で、今後研究員の充実をはかりたいと 考えている。熱意のある人の見学は歓迎するので、指導教授を通じてご連絡い ただきたい。


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