構造生物 Vol.3 No.3
1997年12月発行
第1回TARA坂部プロジェクト講習会の報告
栗原宏之
山之内製薬
第1回TARA坂部プロジェクト講習会が下記の要領で開催されました。
日時 6月27日(金)
場所 筑波大学生農棟A106号室
参加者 39名
プログラム
13:00-13:10 挨拶 坂部知平(FAlS)
13:10-15:00 講演 「岬流CCP4の使い方」岬真太郎(塩野義製薬)
15:00-15:10 休憩
15:10-17:00 質疑応答
今回は「CCP4の使用例」というテーマでの勉強会でした。塩野義製薬鰍フ岬真太
郎さんを講師として招き、CCP4の使用方法についてご白身の経験を交えながら紹介
して頂きました。講演では、CCP4を用いた重原子同型置換法の計算手順について、
どのプログラムをどのようなinput fileで使用しているのか、具体例が紹介されました。CCP4による解析の大まかな流れを把握する上で非常に役立ったことと思います。参
加者には岬さんによる講習会のテキストが配布されました。このテキストには解析の
流れやその際の考え方が各input fileを挙げながら非常に丁寧に説明されているので、
特にCCP4の初心者には大変参考になると恩います。テキストの内容は紙面の都合で
ここには載せられませんが、ご覧になりたい方は、行事委員会(畠、三共)あるい
は編集委員会(栗原、山之内製薬)までご連絡下さい。
また、講習会の参加者.はご記憶かと思いますが、北大理の中川敦史さんがCCP4プ
ログラムの使用流れ図および各プログラムを走らせるコマンドプロシジャについて
コメントされました。中川さんのご厚意により、CCP4を使った構造決定の流れT、U、V、W (資科 1)、コマンドプロシジャの例(資料 2)をここに掲載させて頂きまし
た。また、中川さんはMTZ file(資料 3)やSHARP(資料 4)についてもコメント
を書いて下さったので、紹介します。
講演や質疑応答での話題をいくつか拾ってみますと
- FFfでmapを描く際grid数はgrid間隔が分解能の1/3程度になるように指定する。
この際grid数が19を越える素数の整数倍にならないように、またx方向のgrid数は
2hmax+1以上になるように(他の方向についても同様)という制限がある。grid数
の入力を省略するとプログラムにより適当な値が設定される。
- DMを使った後、重原子パラメータを再度精密化した方がmapの質が向上すること
がある。
- 重原子位置を探索する際には、むやみに重原子のサイト数を増やさず、差フーリエ
で見つけたピークがパターソン上のピークを矛盾なく説明できるかどうか確認しな
がら重原子を加えるべきである。この点に関して当日の参加者はだいたい同意見で
あったが、海外の研究者の中にはとにかく重原子サイトを加えられるだけ加えて、
精密化やその後mapを計算した時点で不適切と考えられるサイトを取り除いていく
というやり方をしている人もいる。
- 位相決定に使用するデータの分解能については、まず可能な限りのデータを使って
位相づけを行い、得られたmapをみながら検討するという方針の人が多かった。ま
た、重原子位置を精密化する時に温度因子を固定して分解能と占有率をグラフにし、
分解能が高くなるにつれ占有率が大きくなり始めるところまでを有効とする方法も
ある。
最後に岬さんのテキストの中からの抜粋です。
- 論文などで、重原子同型置換法による構造解析の結果をみるとあたかもルーティン
ワークであるかのような印象を受けがちですが、実際の解析計算には様々に苦労す
る点が存在するのが現状です。多くの場合、比較的順調に重原子同型置換法による
構造解析が成功するか否かは、もとのデータセットに依存することは言うまでもあ
りませんが、通常理想的なデータセットを得ることは困難であり、むしろ構造解析
が成功するか否かは、データの質の見極めが出来ること、計算の適用条件の設定が
的確にできること等に大きく依存しています。(略)解析が成功するか否かは、計
算の適用条件も含めたプログラムの使い方に大きく依存する面も少なくありません。
逆に、プログラムを使う工夫により解析がうまくいった時の計算の手順ならびに
Input File等を持っておくことは非常に役立つのではないかと思われます。
実際に岬さんの取り扱った例では、強度測定に多数の結晶を必要とするような場合に、
データ間のスケール合わせに非等方性のスケール関数を導入することで、mapの質に
明らかな改善が認められたそうです。
行事委員会では今後もこのような勉強会を企画していく予定ですので、ご期待下さい。
ご意見、ご要望などは下記のアドレスにメールを下さい。
sasaki@tara.met.nagoya-u.ac.jp