構造生物 Vol.3 No.3
1997年12月発行

アレイ型多素子CCDX線検出器


雨宮慶幸(東大・工)、伊藤和輝(総研大)、坂部知平(FAl S)


1 はじめに

シンクロトロン放射の大強度のX線を有効に利用して結晶構造解析を行うため には、感度が高く、高計数率能を有する二次元X線検出器が必要である。高計数 率能とは、瞬時に強いX線が入射しても数え落としがないという性能である。イ メージングプレートはこれらの2つの条件を満たすために、これまでシンクロト ロン放射を用いた結晶構造解析の分野でその威力を発揮してきた。さらに、イメー ジングプレートは、広いダイナミックレンジ、取り扱いの容易さ、大面積化の容 易さ、良好な感度の均一性、などの優れた特徴を持つ。しかし、基本的にはフィ ルム法であるため、実時間測定(その場観察)ができないこと、時間分割測定に 不向きであることが欠点である。この欠点を補うX線検出器として注目されてい るのがCCDを撮像部に使用するCCD型X線検出器である。欧米では、80 年代前半からCCD型X線検出器の開発が行われており、最近では欧米の5〜 6社の企業がCCD型X線検出器の販売を開始している。

我々は、日本国内に於いてもCCD型X線検出器の技術を蓄積することは大 切であると考え、90年からイメージインテンシファイヤとCCDを組み合わせ たX線検出器の開発を行ってきた(文献1、2)。この検出器システムは主に小 角散乱の時間分割測定を目的として開発された(文献3)。この経験を基に、文部 省重点領域研究「動的蛋白結晶解析」では、蛋白質結晶構造の変化をリアルタイ ムで追跡するためタンパク質結晶構造解析自動計測用にプロトタイプのアレイ型 (2×2)CCDX線検出器の開発を行った。この検出器は計測しながら同時に 読み出しができる性能を有し、世界に先駆けた開発である。しかしながら、この 検出器の有効面積は不十分(144mm X72mm)であり、十分なカメラ距 離を取れず、また、高角分解能が制限される。従って、より大きな有効面積を持 つアレイ型CCDX線検出器の本格機の開発が望まれる。学振未来開拓では、 18個(3×6)のCCDを並べたアレイ型CCDX線検出器を製作し、 210mm X 210mmの有効面積を実現する。

2 CCDとは

CCDは、charge coupled device の略であり、光ダイオードを二次元的に配列し た固体撮像素子である(図1)。光がCCDに入射すると電子一正孔のペアーが でき、入射光量に比例した電荷がその場所(画素)に蓄積される。その電荷の読 み出し方式が、CCDのcharge coupled deviceたる所以で、図1のように、電荷 をまず縦方向に次に横方向に画素間でシフトして、最終的には一つの出口から電 荷を読み出す。すなわち、二次元の電荷密度情報を一次元の時系列情報として読 み出すのである。高速で読み出すほど読み出しノイズが増加するので、全画素を 2〜20秒の時間で読み出しを行なう。CCDの画素サイズは、1辺が数ミクロ ン〜20ミクロン、画素数は、通常入手できる最大のものは100万画素である。 米国では、400万画素のものも製作されている。

CCDが登場する以前は、真空管方式の、いわゆる、ビジコン方式と呼ばれる 撮像管が可視光像の撮像に使用されてきた。それが、solids仏te化されて、CCD に移行してきた。ビジコン方式の撮像管とイメージインテンシファイヤを組み合 わせたX線テレビが70年代後半からAmdt、Gruner らによって製作されている。 CCDはビジコン方式の撮像管に比べて、以下の点で優れている。1)読み取 りノイズが小さいため、ダイナミックレンジが広い、2)強度の直線性が良い、 3)画像歪みがない、4)感度の均一性が良い、5)磁場の影響を受けない、6) 小型化できる。

CCDには、民生用と科学計測用の2種類があり、民生用はNTSC方式の 読み出しで、テレビ、ビデオのカメラとして広く使用されている。1秒間に30 コマの像を取ることができるが、開口率が30%程度であるため科学計測用に比 べて感度が低く、ノイズレベルも高い。科学計測用CCDは開口率が100%で 感度が高く、冷却して使用すればノイズレベルを極めて小さくすることができる。 世界中で使用されている民生用CCDの大半は日本製であり、日本の技術は世. 界最高水準にある。しかし、科学計測用CCDは日本では、浜松ホトニクスや二 コンなど、ごく限られた企業でしか生産されていない。我々は、浜松ホトニクス の科学計測用CCDを用いてX線検出器の開発を行う。

3 縮小型光ファイバー

CCDの面積は、1辺が10〜25ミリ程度であるので、X線回折像を記録す るには小さすぎる。また、X線を直接入射させるとダイナミックレンジが小さく なり、また、空乏層が薄いのでX線に対する感度も低い。そこで、回折用のX 線検出器として利用するためには、CCDには直接X線を入射させずに、一度 可視光に変換し、かつ、像のサイズを縮小する必要がある。その方法は、蛍光体 を最前面に用いその後ろに、1)イメージインテンファイヤ、2)光学レンズ、 3)光ファイバ、のいずれかを組み合わせて可視光像を縮小する方法である。こ こでは、光ファイバを用いた。その理由は、イメージインテンファイヤでは、ア レイ化して大面積化できないこと、また、光学レンズでは、透過率が低く感度が 上がらないこと、である。

図2に、蛍光体と縮小型光ファイバと冷却CCDを組み合わせたシステムの模 式図を示す。蛍光体は、Gd O2S2:Tbをアルミマイラの上に塗布し、そ れを縮小型光ファイパの端面に密着させている。縮小型光ファイバには米国 Schott社のものを用いた。

光ファイバの縮小率を大きくすると、より大きなX線像をCCDに結像でき るので、面積をかせぐのには都合が良い。しかし、縮小率を大きくするほど、透 過率が低下するため、高感度のCCD型X線検出器を実現するためには、3〜 4:1の縮小率が限度である。縮小率と透過率の目安は、以下の通りである。

縮小率 透過率
1:1    75%
2:1    20%
3:1    13%
4:1    9%
我々は、3.2:1の縮小率の光ファイバーを用いる。
ところで、縮小型光ファイバには画像歪みが伴う。この歪みはソフトウエアで補 正を行う。

4 ハーフフルフレーム読み出し CCD

科学計測用CCDは、フルフレーム読み出しを行っている。すなわち、図1に 示したとおり、全面積が光受光部として使用される。これに対して民生用CCD は受光部と電荷転送部が交互に入れ子になっていて、インターライン方式で読み 取りが行われる。このため開口率が低くなるが、瞬時に電荷を受光部から転送部 に転送できるので、連続撮影が可能になる。事実、民生用CCDは、通常1秒間 に30コマで像を撮影することができる。我々は、当初、民生用CCDを受光部 に用いることを検討した。開口率が低く感度は多少犠牲になるものの、露光と読 みとりが同時に行え、連続撮影が可能であるからである。しかし、前述のように 読み取りノイズが高いため、特注のCCDを生産しない限り、科学計測用CCD と同等のノイズレベルは実現しないことが判明した。そのためには設備投資だけ でも1億円以上が必要であり、将来の開発課題として先送りすることとした。そ こで、露光と読みとりを同時に行う方法として、科学計測用CCDを受光部と転 送部に2分割したハーフフルフレーム読み出しCCDを採用することにした。図 3にハーフフルフレーム読み出しCCDの概念図を示す。1000×1000画 素のCCDの上部半分が受光部、下部が転送部として用いられる。受光部から転 送部に電荷を転送する時間は約1ミリ秒である。転送部に送られた電荷は約2秒 かけて計算機に読み取られる。読み取り時間中に受光部には次の回折像を蓄積す ることができるので、実質的に読み取り時間のロスはなく、連続撮影が可能にな る。ただし、受光部として使用できる面積が半分になるので、X線に対する受光 面積も半分になる。そこで、図4のように、CCDをタイルのように二次元的に 配列させて面積を大きくすることとした。もっとも、通常の科学計測用CCDを 用いた場合でも、大面積化するためにアレイ状に配列することが必要である。 我々は、3×6個の配列のアレイ型多素子CCDX線検出器をこの学振未来開 拓で製作する。

5 アレイ型多素子CCDX線検出器

アレイ状CCD型X線検出器は、イメージインテンシファイヤとCCDを組 み合わせたX線検出器(以後、II+CCD検出器)に比べて、次のような特 徴を持つ。

1)大面積化が可能、2)大面積化しても高い位置分解能が得られる、3)すべ て固体素子を使用しているので動作が安定している、4)感度の不均一性が少な い、5)画像歪みが少ない、6)凹型形状にできる可能性がある。 また、イメージングプレートと比較して、1)実時間測定が可能である、2)露 光と読み出しを同時に行えるので、duty cyclc が100%である、という特徴を 持つ。これを用いると、イメージングレートを用いた測定に比べて、全測定時問 を大幅に短縮できる。

6 従来のCCD型X線検出器との比較

我々が開発するCCD型X線検出器の特徴は、X線露光とデータ読み出しを 同時に行えることである。この性能は、ハーフフルフレーム読み出しCCDを採 用したことに起因している。

従来のCCD型X線検出器ではデータ読み出しの間はX線露光ができず、そ の時間が測定時間のロスタイムとなる。また、データ読み出しは高いS/Nを 得るために低速度でゆっくりと行う必要がある。早い読み出しでも4秒、現在 CHESS(コーネル大学放射光施設)で蛋白質構造解析に使用されている機種 では20秒の読み取り時間がかかる。我々のCCD型X線検出器では実質的な 読み出し時間がわずか1ミリ秒であるため、ほぼ100%のduty cycleで露光を 行うことができる。

我々のCCD型X線検出器のもう一つの大きな特徴は、実質的な読み出し時 間の短縮(約1ミリ秒)により、時間分割測定が可能であることである。注目す る連続した2つの時相でのX線回折像の時間変化をミリ秒の時間分解能で追跡す ることができる。

7 まとめ

これまでCCDをアレイ化して有勅面l積を大きくするアレイ型CCDX線検 出器の開発はいくつをのグループで試みられているが、実用の目処のついた検出 器を開発したのは、我々のグループとADSC(Advanced Detector System Cooporation) などごく限られたグループのみである(いずれも 2 X 2 個)。その意味で 18個(3 X 6)のCCDをアレイ化する企ては大変画期的な開発であり、この 開発を通してCCDを用いたX線検出器の技術が飛躍的に進展することが期待 される。

文献

  1. Y. Amemiya etal., (1994) in Synchrotron Radiation in the Biosciences, (Oxiord Science Publication), 395-406.
  2. Y. Amemiya et al., Rev. Sci. Instrurn., 66 (1995) 2290-2294.
  3. 大石泰生、植付明夫、雨官慶幸(1994)放射光、7128-136
  4. 雨宮慶幸:シンクロトン放射光の基礎(大柳宏之編、丸善)、(1995) 6.1章、A2章

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