構造生物 Vol.4 No.1
1998年3月発行

白己紹介


丹健太郎

長岡技術科学大学大学院工学研究科・生物機能工学専攻三井研究室

氏名:丹健太郎
所属:長岡技術科学大学大学院工学研究科
生物機能工学専攻三井研究室
学年:修士課程1年
連絡先:〒940-21新潟県長岡市上富岡町2丁目1914-5 はしかみハイツ202号室
te1.0258-46-3864
e-mail address: tan@stn.nagaokaut.ac.jp

白己紹介内容:

私は高専在学時に酵素反応の特異性について興味を持ち、様々な本を 読んで酵素の構造と機能の間には大きな相関関係があることを知りまし た。そこで、生体高分子の構造解析を勉強したいと思い、大学に編入学 したので、研究室配属の時は迷わず三井研究室を希望しました。現在、私 は放線菌 Streptomyces albogriseolus 由来セリンプロテアーゼ(SAM-P45)のX 線構造解析をおこなっています。

SAM-P45は放線菌ズブチリシンインヒビター(Streptomyces subtilisin inhibitor以下SSIと略す)の新規内因性標的プロテアーゼとして、 Streptomyces albogriseolus S-3253変異体(SSI欠失)の培養上清中より単離さ れました。SSIは枯草菌由来のセリンプロテアーゼであるズブチリシンを 主要な標的酵素とするタンパク性インヒビターとして Streptomyces albogriseolus S-3253の培養濾液中より発見されました。枯草菌由来のズブチ リシンと放線菌由来のSSIとは必然的な結びつきはなく、SSIの真の標的 酵素は同じ放線菌に由来するものと推測されます。また、多数のSSI様の インヒビターが放線菌から発見され、放線菌一般に分布していることが 明らかになりました。このためタンパク性インヒビターの生理学的機能 を解明することが重要となりました。そのためにはSSIの真の標的酵素を 探索し、その生理学的機能の解明が重要です。

SAM-P45はアミノ酸1102残基の、N末端のシグナル配列に加え、C末 端側に膜結合ドメインを持つ巨大前駆体として翻訳され、修飾を受けて 413残基の成熟体となり菌体外に放出されます。SAM-P45はズブチりシン ファミリーに属し、トりプシン様の基質特異性、Ca2+促進性の活性発現、 典型的セリンプロテアーゼ阻害剤PMSF(フェニルメタンスルホニルフ ルオリド)、TLCK(1-クロロ-3-トシルアミド-7-アミノ-2-ヘプタノン)、 およびTPCK(L-1-トシルアミド-2-フェニルエチルクロロメチルケトン) にほとんど感受性を示さないなどの性質を持ちます。これらの性質は真 核生物のプロホルモンのプロセッシング酵素に類似していることから SAM-P45は原核生物と真核生物のプロテアーゼの中間的な存在ではない かと考えられています。

このようにSAM-P45の生理的機能解明によって得られる知見は、放線 菌中でのSSIの生理的機能の解明のみならず、原核生物と真核生物の進 化的な関係の解明においても重要な情報を与えるのではないかと考えて います。私はSAM-P45の生理的機能解明に不可欠なSAM-P45とインヒビ 夕一の複合体の立体構造を明らかにすることを目的にSAM-P45とキモト リプシンインヒビターであるキモスタチンの複合体のX線構造解析をお こないました。

現在までに、SAM-P45とキモスタチンを濃度比1:40で10mMクエン酸 緩衝液(pH5.4)に溶解した物をタンパク溶液に用い、条件検索の結果、 タンパク濃度30mg/ml(0.67mM)、27%PEG1000、0.2M酢酸ナトリウムを含 む0.07Mグリシン緩衝液(pH9.0)の溶液を沈殿剤とした条件で柱状の結 晶(空間群:1P212121、格子定数:a=57.3Å、b=79.5Å、c=87.0Å)が得られ ました。X線回折強度データの収集を行ない、分解能2.8Åのデータを R-merge:13.6%、Completeness:90.8%で収集しました。今後、さらなる結晶化 条件の最適化とともに、重原子同型置換法による構造解析をおこなう予 定です。

なお、今回紹介した内容は平成九年度結晶学会において発表しました。 三井研究室は実験設備やコンピューター環境が非常に充実しており、 実績のある研究室なので、私もかならず満足のいく結果をだせるように 努力していきたいと思っています。

将来は、構造解析の知識を生かせる仕事に携わっていぎたいと思って いるので、これまで以上に構造解析の勉強をしなければならないと思っ ています。


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sasaki@tara.met.nagoya-u.ac.jp