構造生物学による3次元構造解析の主流な方法の1つであるX線結晶構造解析は、 中国においても諸外国と全く同様に、立派な設備を使用できる環境にあり研究の質も かなり成熟したものになっている。
中国の研究者が初めてウシのinsulinの全合成を行った後、AcademiaSinica研究所と 北京大学の結日日日学者が、Academia Sinica物理学研究所において共同でinsulinの結晶構 造解析に着手したのが1967年のことである。この研究によって、中国は蛋白質結晶 学の分野にいち早く足を踏み入れた国々の1つになった。
OxfordのHodgkin教授のグループがinsulinの2.8A分解能の構造を発表してまもな く、中国の研究グループもinsulinの4.0Aと2.5A分解能の構造をそれぞれ1970年と 1971年に報告している。1974年に発表された1.8A分解能の構造は、重原子同型置換 法により解析されたものとしては当時世界中で最も高分解能の構造であった。
1970年代の終わりから1980年代の初めにかけて行われた2Zn insulinの1.2A分解能 とdespentapeptide insulin(DPI)の1.5A分解能の解析は、その当時の世界的レベルに達 していた。insulin研究の後の中国では1970年代の後半に始まったtricosanthin(天花 粉蛋自)の構造研究、続いてD-glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenaseやtrypsin inhibitorなどの重要なプロジェクトが行われた。
最近の10年ではいくつかの新しいプロジェクトが行われ、かなりエキサイティン グな結果が得られている。
中国の結晶学者は今のところ2次元検出器が装備された回転対陰極型X線発生装置 以外に、放射光施設は所有していないのであるが、KEKのPhoton Factoryの坂部教授 のグループと非常に親しい関係にあり、PFでは心温まるサポートを受けている。長い 年月にわたり中国の蛋白質結晶学者は足繁く日本のつくばを訪れ、BL6A,BL6B, BL18Bのビームラインでワイセンベルグカメラを使って実験を行い、多くの質の高い 反射データを収集してきた。これらの学術的活動は中国と日本の蛋白質結晶学者の親 交を深めるばかりでなく、中国における蛋白質構造研究を有利に進める上でも役立っ ている。