構造生物 Vol.4 No.2
¶1998年8月発行

放射光による生体高分子結晶解析用高速高精度高分解能
自動データ収集システムの開発研究経過報告(その1)


坂部知平


I. はじめに

平成8年度より5年計画で日本学術振興会・未来開拓学術推進事業・プロジェクト番号 JSPS一RFTF96R14501として自動データ収集システムの開発研究を行って いる。此のシステムのアイデアについては本誌Vo1.3,No.2,(1997),77-84頁に記載した。 細かいことを書き出すときりがないので、要点のみ、出来るだけ平易に記述したつもりで ある。しかし読み返して見ると込み入って分かり難い記述も多々あり不本意であるが、省 略するとポイントを押さえられなくなるのでそのままにした。その点ご容赦願いたい。

先回も述べたが放射光を用いる限り、露光時間が短くてすむ。この為常にイメージング プレート(IP)の読取時間がその数倍掛かる。そこでこれまではカメラ1台に対しIP 読取装置を2〜3台使用することによりカバーしてきた。今回自動化に踏み切ったのは、 「完全円筒型IPカセットを用い、カメラ部で多数の画像を露光した後、カセットを読取 部に移し、一気に多数の画像を読み取ることにより1画像当たりの読取時間を減らすこと が出来る」と言うことに気付いたからである。既にアイデアを記述した時述べたことであるが、以後の内容が理解され易いように再度此の装置の概略を述べる。 本自動データ収集装置の概念図を図1に示す。本装置は大きく分けて、@回折データを 円筒型のIPカセット内全周に張ったIPに、目的とする分解能に応じて分割記録する為 のカメラ部、Aカメラ部で平均9〜18画像を記録したIPカセットを一気に読み取る多 へッドを備えた読取部、B読み取り後のIPに残ったイメニジを消去するため、多数のナ トリウムランプを備えた消去部及びCIPカセットを上記3カ所に自動的に運ぶ為の搬送 部から構成されている。IPカセットは2個あり、最初のIPカセットのデータが読み取 られている間に他のIPカセットはカメラ部で次のデータを記録する。カメラ部、読取部、消去部の3カ所の作業場所に対しIPカセットは2個であるから、常に作業場所が1カ所 空き状態になっている。このためIPカセットをデータ収集終了まで無駄な時間を最小限 にして順次動かすことが出来る。

放射光の強度は今後益々強力になると予想されるので、この様に自動化してもネックは やはり読取部である。IPカセットは円筒形であるため、そのまま読み取り用の回転ドラ ムとなり読み取りは円筒の内側から行われる。この場含、IPカセットの回転数を上げ、 且つ読取ヘッド数を多くすれば、それだけ読取時間を短縮出来るが、難しさも増える。そこで先ず初年度(平成8年度)は読取へッド2個の小型IP読取装置を試作し、多ヘッド 読取実用化への道を探った。此の経験に基づき、平成9年度はIPカセット、読取へッド 5個の読取部及び消去部の設計並びに製作を行った。平成10年度はカメラ部及び搬送部 の開発を行い、10月中にPFのBL6C(本号42頁参照)に設置し性能テスト及び改 良すべき点を見つけ出すための試運転を行う。制御装置部(計算機、ドライバー類、ソフ トウエアー)、モノクロメータ部等は平成11年度の予算で開発するため、現在それらの 仕様、設計の検討が進められている。尚、平成10年度はテスト的な運転を行う。

今回は平成9年度に開発したIPカセット、読取部及び消去部の機械部分に付いて特に 難しく、開発要素の大きかったところを主に記載し、電子機器などについては次回に譲る。

なお、実験操作は光源に向かって左側から行われるので、光源に向かって左側を前方、 右側を後方と定義する。

U.IPカセット及びIPカセット用コンテナ

1. IPカセット

IPカセツトはIP表面上で内径 800mm の円筒形で円筒軸方向に 450mm 幅の IPが内側より張り付けられたものである。さらに入射X線用に円筒の中腹に10度間隔 で円周方向 3mm、軸方向 15mm の穴が36個設けられている。横長にしたのはワイセ ンベルグ写真を撮影するとき必要な為である。動作時、カセットの後方は装置の支持面を向くため遮光される。前方の遮光にはカセットに取り外し可能な蓋を付けた(図2)。

1.1. IPカセットの材質、形状及び加工精度

10年近く前になるが富士フイルム社製のIP読取装置BA100を使用した時の経験 で、IPの裏に張ってあった厚さ 200μm のラベルの影響で、その部分の読取強度が1 〜2% ほど異なっていることを観測した。このことを考慮すると、今回製作した「IPカ セットの真円からの歪み」を全領域に渡って 200μm 以下にする必要がある。これだけ 大きなものを 200μm 以下の誤差で作ることは容易ではない。資材として最初ジュラル ミンも考えたが精度を出すためには分厚くなりその結果重量もそれほど軽減されないため精度の出し易い鋼材を使用した。

当初の計画では市販されている鋼管にリングを2カ所熔接したものから削りだして製作 する予定であったが、加工精度を保証するには熔接箇所を出来るだけ減らした方が安全であると考え、肉厚 50mm、外径 890mmのパイプを特注し、これを素材として使用し た。仕上がった製品の時間経過による変形はIPの読取精度を直接左右する為、これを最 小限に押さえる必要がある。そこでパイプ素材の状態で歪み取り焼鈍を2回に分けて行い、更に加工工程の粗加工を終了して最終仕上げ加工に入る前で、粗加工により生じる加工歪みを取る為の歪み取り焼鈍を行った。又、X線導入用の36個の長穴加工にも加工歪みが 生じないよう細心の注意が払われた。更にカセット内面の面の荒さはIP張り付けの接着 強度を左右するため、加工ツールを特殊処理したものが使用された。

メーカーの測定では此の段階で真円からのずれは±50μm以下である。円筒軸方向の 基準は光源に向かって右側のリングの左面を基準(基準面)とした(図3)。此の基準面 の誤差も全周で ±20μm 以下に加工できた。IP張り付け前のカセットの写真を写真1 〜3に示す。写真1は斜め後方から撮影したものでリングに開けてある穴は10度毎にセ ンサーを付けるためのものである。写真2はカセットを真横から撮影したもので2個のり ングとその間にX線入射用の穴が10度毎に開けてあるのが見える。又右側に遮光用の蓋 が少し見えている。写真3はIPカセットを前方から撮影したもので遮光用の蓋が写って いる。写真4にIPカセットを後述するコンテナに納め読取部にセットした状態を示す。

1.2. IPカセットの回転時のバランス

IPカセットは毎秒2回転する。このとき僅かなバランスの崩れも許されない。幸いメ ーカーは多くの回転対陰極型X線発生装置を製作しており、此のアノードは高速回転する ため、バランサーにより不釣り合いの調整を行いJlSの釣り合い等級G1以下に押さえ ている。此の技術を今回のIPカセットに取り入れ同程度のバランスを取った。

1.3. 読取部の概略

読取部の概念図を図4に示す。読取時にはIPカセット用コンテナが中央下部にある工 アーチヤック付き直進駆動部により引き寄せられ円形のところにIPカセットが入る。同 時に図3の左下にあるローラーの奥に動力伝達用ギヤ(図には描かれていない)がありこ れが図4のプラスチックギヤカップリングと結合しIPカセットの回転を制御する。5個 の読取へッドは図4の右上に描かれた頑丈な台座に取り付けられ、IPカセットの円筒軸 に平行に動く。読取へッドには半導体レーザー、フィルター、集光レンズ、ピンホール、光電子増倍管(フォトマル)があり、半導体レーザーから出た光はフィルターを素通りし、集光レンズで集光され、直径1 mmのピンホールスリットを通り抜け、30μm幅でIP を照射する此の時発生する蛍光はピンホールを通り(集光効率;立体角90度)、その後 2個のフィルター表面で反射しフォトマルによって検出される(写真5)。IPカセット の搬入及び搬出の際読取へッドを安全のため読取へッド待機モータで引き上げる。

1.4. 偏差を最小にする読取へッド位置

IPカセットの加工精度は要求を満たしたが、IPカセットを回転した際、読取へッド とIP表面との距離変動が 200μm 以下でなくてはならない。詳しいメカニズムについ ては後述するが、IPカセットの2個のリングが4個のローラー上に乗って支えられてい る(図3,写真4)。これらローラーとリングが位置関係を決定しているので、上流側下 部のローラーとリングの接点とIPカセットの中心を結ぶ線上に読取へッドを取り付けた (図4、写真6)。このことにより機械的誤差が読取精度に与える影響を少なくできた。

1.5. IPの張り付け

現存する種々のIPを検討した結果、蛋白質X線結晶解析にはST-Vが最高のS/N を与えることが分かった(J.Synchrotron Rad.(1997),4,136-146)。しかしST−Vは 400 mm X 200mm しか生産されていない。メーカーは幅 400mm 迄の経験は持っている が450mmの経験はない。そこで先ず平成8年度に幅 45Omm のIP製作の技術的 検討が行われ、可能であるとの結論が得られた。

IPカセツトにIPを張り付ける技術はメーカーに豊富な経験がある。しかし特注品に よる巨大なIP(2513mm x 450mm2)を張り付けた経験はない。全領域における凹 凸は 200μm 以下に押さえる必要がある。このためには@接着剤の均一性、従って接着 剤の粘度も小さなものを使う必要がある。また空気層が出来てはならない、従って真空或いは減圧下で接着する必要がある。これについてはメーカーの努カにより解決できた。次に、A熱膨張により温度変化を繰り返した際はがれないか。このため幾つかに切って隙間を空けて張ることも検討したが、実験の結果温度変化が20度以内であれば分割の必要が 無いことが分かった。

2. IPカセット用コンテナ

2.1. IPカセット用コンテナの構造

IPカセットは円筒形をしているためこのまま搬送するのは困難である。そこで頑丈な 枠を作り一辺を水平に置いた三角形の頂点位置にローラーを付け、リングを回転運動以外出来ないように固定した(図3、写真4)。リングは2個あるのでローラーは6個取り 付ける。この内下部のローラーによりIPカセットの回転が制御される。円筒軸方向への 固定は基準面を基準用ローラーで固定する(図4,写真7)。基準面と基準用ローラーが 密着するようもう一方のリングにもローラーを取り付けるが、これは基準としないためバネで押すタイプのローラーである。外部からコンテナ内のローラーへの動カの連結はギヤカツプリング(図4,写真8)を採用した。即ち、外部に取り付けられたプラステイック 製の雌型のギヤにコンテナ内の雄型(通常のギヤ)ギヤがはまる形式のものである。

2.2. IPカセット用コンテナの並進移動

IPカセット移動時には、アームの先端に取り付けられたエアーチヤックが(図4、写 真9)IPカセット用コンテナの下部中央をしっかりと固定し、直線ガイドレールに沿っ てコンテナを精度良く移動させる。

2.3. IPカセット用コンテナの読取時の固定

エアーチャック付き直進駆動部で前後方向の定位置に移動させ、左右方向を横押しシリ ンダーで固定した状態でIPカセット用コンテナの下部4カ所を油圧クランプで固定す る。

V. 多へッド読取装置

読取へッドの数は多いほど効率が良いがへッドの大きさ、位置調整などを考慮し5個に 決定した。

1. 読取方法

イメージングプレートにX線が当たると、X線量に比例してカラーセンター(潜像)が 出来る。これに赤色のレーザー光を照射するとX線照射により記憶された量に従い緑色の 蛍光を出す。その緑色の光をフォトマルで読み取る。この場合の光学系には各種あるが、我々は共焦点方式を採用した。即ち、レーザー光を絞ってIP上に照射するためのレンズ で同時にシグナルである蛍光を集める方式である。

2.多へッド読取の間題点と解決方法

読取へッド1個の場合、読取開始点は常に端を選ぶことが出来るので、最初の数回転空 読みを行い、定常状態になってからデータの読み込みを開始することが出来る。しかし読取へッドが2個以上になると、1個は端から始められるが残りはIP上にあるため空読み は出来ない。その為解決すべき間題が出てくる。

2.1. 先読み現象

レーザー光は輝度が極めて大きいため焦点を30μmに絞ってもその周りに極く僅かな 量の光ではあるが、光が漏れる。又IP表面での反射が読取へッドで再反射して広がりを 持って赤色の光が再度IPを照射する。この様に不必要なレーザー光により、IP上に記 憶されていたイメージが蛍光を出して、その分イメージが薄くなる。これを先読み現象と言う。定常状態では幾分強度が落ちること以外はあまり誤差の原因になるとは考えられていない。

しかし読取ヘッドが複数の場合、IP上に設定されたヘッドは空読みすることが出来ず、 レーザー光照射と同時に読み出しを行う必要がある。この場合、定常状態になるまで読みとり効率が変わる。即ち、照射開始時点では先読み現象が無いため効率が良いが次第に効率が下がり定常状態になる。更に接合点では2回先読みの部分が出来るため強度の落ちも 2倍になる。

初年度開発した2ヘッド型読取装置は先読みを出来るだけ減らすよう、レーザー光の出 射口に φ0.5mm のスリットを設けIPと此のスリットの間隔を 0.5mm とした。全面を均 等に露光(デジタル値800/画素)したIPを用いてテストした結果、生データでは誤 差範囲内に押さえることが出来た。

実用機では読取へッドは5個で且つカセットの出入りがある、しかも全自動で行うため、 万一へッドがIPカセットに触れるようなことがあってはいけない。そこで安全の為スリ ットサイズを1mm、IPとスリットの間隔を1mmに決定した。このためテスト機より は先読みが大きくなると思われるが、もし観測されたとしてもソフト的に補正可能な範囲であると推定した。又5個のヘッドは共通の台に取り付けられ、カセットの出し入れの際 は安全な位置に待避するようにした(図4,写真10)。

2.2. レーザー照射とIP上の読取開始点及び読取開始の同期性

IP上に設定された読取ヘッドは空読みが出来ないため、IPカセット上の定点(読取 開始点)が来たときレーザー光の照射が開始され、それと同時に画像の読取を開始する必 要がある。画素サイズは 100μm X 100μm であるから、此の同期誤差はIP位置で 50μm 以下である必要がある。これを時間で表現すると、カセット半径 400mm、毎 秒2回転であるから約 20μ 秒の同期を必要とすることになる。

結論から言うとこれは半導体レーザーを用いることで解決した。IPの励起スペクトル の極大は 600nm であり、今日迄、波長 633nm のHe-Neレーザーが殆ど此の分野を 制していた。しかし今回は5個のヘッドに供給するには体積が大きすぎること、高速シャ ッターの問題などを考慮した結果、半導体レーザーPPMT一CLMO10を用いること に決定した。最大の利点は「パルスを与えてから僅か 6μ 秒で定常状態のレーザー発信を 行う」ため上記した 20μ 秒の同期を制御するには十分な速さがあることである(図 5)。波長が 635nm であり、He-Neレーザーより少し長いがIPの励起曲線は緩やか であるため感度差は殆ど無い(図6)。出力は 15mW であるが、平行光として取り出せ る光出力は 10mW しかなく少し問題がある。しかし此の分野の進歩は速いので、平成 12年度までに改良型が出ると予想されるので、その場合は取り替える予定である。短期 的な安定性、環境の温度変化等はテストし満足な結果が得られた。しかし長期使用テストは短期間では出来ないため、まずは使用してみることにした。

2.3. へッドの間隔

IPカセットの横幅は 450mm あり、そこに5個の読取へッドを取り付ける(写真 10)。間隔は理想的には 90土0.05mm である。これについてはメーカーに 100μm 迄合わせるノウハウがあり試作機で確認した。しかしヘッドの数が増すと誤差も増すことを想定し、1mm 多く、即ち 91mm 読ませソフトで繋ぎ目を補正することに決定した。 間隔の耐久性も試作機では満足できているがへッド数が増すに従い、耐久性にもばらつきが出てくることを想定しなければならない。此の点からもソフトでカバーすることは重要である。いかなるソフトでカバーするにしても測定値が必要であり、読み始めは決まっているので調整は読み終わりで行う必要がある。要は最終的に得られた画像から正確な方位マトリックスが出来れば日的を達する。いろいろ方法を考察したが次の何れかを採用する予定である。@既知の良質な結晶を用いて正確な方位マトリックスを得るようにへッド間隔の補正値を求める方法、この場合良質結晶を用いるため精度良く補正値を得ることが出来るが、頻繁に補正値を求めることは使用上難しい。Aデータプロセッシング用ソフトに補正プログラムを組み込み、毎回補正を行う。この場合は常に補正を行うので何時狂いを生じても対処でき、その補正値を毎回知ることが出来るので、誤差が限度値を越えた場合ハード的な調整を行う。しかし蛋白質結晶には良質な結晶は少ない、従って補正値の精度は低いと思われる。ソフトは平成11年度予算であるため、未だ方式を決定する段階には 至っていないが、恐らく現時点では上記@とAを併用することになると考えている。即ち、年に1〜2回@を実行する。通常は此のパラメーターを用いて計算するが、何時でもAを実行できるようにしておく。

2.4. へッド間の感度差

ヘッド間の総合的な感度調整はフォトマルに供給する電圧の微調整で容易に出来る。し かし実際にはレーザー光のパワー、焦点サイズ、その他へッド内の光学系など多くの要素を含んでいる。この内へッド内光学系の安定性についてはメーカーに十分な技術の集積があり問題は少ない。レーザー光のパワーや焦点サイズについては定期点検を行う。定期点検の間隔は安定性を確かめた段階で決まる。

人の視覚による判断は極めて鋭敏である。スクリーン上で画面を観察すればへッド間の 総合的な感度差(デジタル値の差)を容易に知ることが出来る。従って、日常的な感度差 のチェックは実験者がスクリーン上で行うことにした。

IV.消去部

これまでの経験からナトリウムランプがIP上に残ったイメージを消去するのに最も適 している。そこで 135W のナトリウムランプ(NX135)を16本円筒状に並べた(写 真4)。強力であるため2分間で消去されるが、消費電力が 2160W になるためソケッ ト近傍での発熱量も大きい。その為エアコンによる強制空冷を行っている。最大の問題点はナトリウムランプはオンオフが簡単には出来ない。未使用時光がカメラ部或いは読取部に悪影響を及ぼさないため、ナトリウムランプは半回転するシヤッター付きのカセツトに納め使用時のみシャッターを開ける。尚、均一な消去を行うため消去中IPカセットを1 分間1回転の速さで一方向に回転する。

V.メーカーが行った試験成績

現在此の装置を設置するTARA用ハッチBL6Cを本年10月完成予定で建設中であ るため、未だメーカーに預けてある。従って、実際の試運転は10月以降になる。ここで はメーカーが行った試験成績を次に掲げる。

読取部及び消去部の試験成績

今年度までの予算には、制御系が含まれていないため、IP画像までは得られない。 そのため読み取り画像を使用した総合評価はできない。
今回は、最終的な画像に影響を与える各部品の試験結果のみの提出に留まる。
ただし、最低限必要となるIPカセットの回転テストのため、擬似的な回路を用意して、IPカセツトの回転動作を行った。

下記の項目に付いて試験を行った。

I. 読取部

@IPカセットの機械精度
AIPカセット回転時の振動
BIPカセットの回転安定度
Cレーザーのビーム形状及び安定度
D各読取ヘッド間のピッチ

U. 消去部

@ナトリウムランプの点灯試験
A消去時のIP表面の温度変化

試験結果

I. 読取部

@IPカセットの機械精度・・・・・・・・・・・・・・・・合格
    読取画像に影響のない精度だった。
AIPカセツト回転時の振動・・・・・・・・・・・・・・合格
    10μm以下で読取画像に影響のない振動だった。
BIPカセツトの回転安定度・・・・・・・・・・・・・・合格
    回転速度のバラツキがサンプリング間隔の±2%以下だった。
Cレーザーのビーム形状及び安定度・・・・・・合格
    読取に影響のない範囲だった。
D各読取ヘッド間のピッチ・・・・・・・・・・・・・・・合格
    30μm以下。

U. 消去部

@ナトリウムランプの点灯試験・・・・・・・・・・合格
   正常に点灯した.最大光量になるのに30分必要。
A消去時のIP表面の温度変化・・・・・・・・・・合格
   予定の消去時間(2分間)では温度変化は1℃以下だった。

詳細な試験内容について以下に示す。

1. IPカセットの機械精度

目的:
読取時に、読取ヘッドとIP面の距離が、200μmで約 2% の感度差が出る。
そのためIPカセツト内のIP貼り付け面の凹凸が 100μm 以下になっているかを 確認する。また、IPを貼った後のIP表面の凹凸が 200μm 以下になっているかも 確認する。
円筒軸方向の位置ずれについても測定する.このずれはそのまま画像のずれになる。
方法:
@IPカセット用コンテナ部を基準にダイアルゲージを取り付け、IPカセット内のIP貼り付け面の凹凸を円周方向及び円筒軸方向について測定する。
円筒軸方向に 10mm おきにタイアルゲージを当て、IPカセットを回転させながら円周方向の最大、最少値を測定する。
これは、円筒軸方向に 10mm おきの相対値のため、円筒軸方向の凹凸の差は、各読取へツド部を基準にダイアルゲージを取り付け、読取ヘッド部の移動軸を 91mm ずつ移動して、絶対値を測定する。
AIPを貼った後、IP表面の凹凸を@と同様に測定する。
B円筒軸方向の位置ずれは、IPカセット用コンテナ部を基準にダイアルゲージを 取り付け、IPカセット用コンテナ部の基準用ローラーが接するIPカセットの 基準面を測定する。
これらの測定の基準点に、IPカセットの円周方向の定点を1点決めた。

2. IPカセット回転時の振動

目的:
読取時に、IPカセットは2 rpsのスピードで回転する。
この時、発生する振動が読取ヘッドに伝わり振動すると読取画像に影響する。
読取ヘッドがIPカセットの円筒軸方向に振動すれば、その振れ幅がそのまま位置のずれになる。これは20μm以下に抑える必要がある。
また、IPカセットと読取へッドとの距離に差が出ると感度差を生じる。
方法:
IPカセット用コンテナを基準にダイアルゲージを取り付け、読取へッド部の左右、 上下、前後の振れ幅を測定する。IPカセットは 2rps で回転する。
結果:
振れ幅は3方向とも 10μm 以下。
3. IPカセットの回転安定度

目的:
IPカセットの回転安定度はIPカセットの円周方向の読取位置精度に影響する。
これはエンコーダーの信号からサンプリングのタイミングを作る。このタイミングは 多少の回転速度のバラツキがあっても追従する回路が用意される。 ただし、回転速度は 10% 以下に抑えないと追従は困難になる。
方法:
IPカセットを読取速度(2rps)で回転させる。
その時のエンコーダ信号のバラツキをオシロスコープで測定する。
結果:
±2% 以下。
4. レーザーのビーム形状及び安定度

目的:
レーザーのビームの形状は読取分解能に影響し、安定度は感度のバラツキとして 画像に現れる。
安定度は1%以下に抑える必要がある。
方法:
ビームの形状は 0.03mm のスリットをXおよびY方向に 0.1mm ステップで 移動させ、レーザーの強度を測定する。
安定度は短時間(1時間)および長時間(24時間)のレーザー強度を測定する。
結果:
ビームの形状はグラフに示す。
短時間の安定度は、測定レンジ以下で変化なし。
長時間の安定度は、0.19%。

4. 各読取ヘッド間のピッチ

目的:
各読取ヘッド間のピッチは隣合うヘッドの先読み、2度読みに影響するため最少限に 抑える必要がある。
調整:
40倍の光学顕微鏡でレーザー光の位置を記憶しておき、読取ヘツドを 90mm 移動させ同じ位置に来るようにレーザー光を調整する。
結果:
30μm 以下に調整できた。

ご意見、ご要望などは下記のアドレスにメールを下さい。
sasaki@tara.met.nagoya-u.ac.jp