構造生物 Vol.4 No.2
1998年8月発行

「タンパク質のX線結晶解析法」
J.ドレンド著、竹中章郎・勝部幸輝・笹田義夫訳


畠 忠

三共(株)分析代謝研究所

本書は、Springer大学院教科書シリーズの1冊して、オランダのGroningen大学の Jan Drenth教授が定年後の数年をかけて完成させた、Prhnciples of Protein X-ray Crystallography」の翻訳本である。全体は15章で構成され、1章の「タンパク質の結 晶化」に始まり、15章の「構造の誤りのチェックと確度の計算」で終わり、X線結 晶解析法の全てをカバーしている。しかも、ただ単に全体をカバーしているだけでな く、新しい内容も取り入れられている。例えば、2章では、シンクロトロン放射では 吸収の関係から1*の波長が使用されている事や二次元検出器では坂部カメラまで触 れている。また、8章の「位相改善」では、「ヒストグラムマッチング」法、15章 では「3D−l Dプロフィール法」などが紹介されている。このように、大学院の教 科書として企画されただけあって、本書の最大の特徴はその内容の広さにあると言え よう。訳者序文にあるように、「読み易さを優先して、思い切った意訳を導入」され ているので、文章も簡潔で、大変読み易い。残念ながら実用面での解説は少ないが、 構造解析を2-3年経験した人が、自分の知識を整理する為には最適の書である。筆 者は以前から、新入社員用にこの手の本を待ち望んでいたので、早速読んでもらった。 その結果、判り易い本との感想を得た。

最近の遺伝子組み換えの技術の進歩によって、今まで入手出来なかったような生体 高分子も手に入るようになり、タンパク質結晶学も質的に変化せざるを得ないだろう。 即ち、今やタンパク質結晶学は、ただ単に結晶や回折現象に関する事だけでなく、遺 伝子組み換えによる大量発現や、科学研究用あるいは工場生産のためのタンパク質の 設計等も含んだ学問大系と言えるのではなかろうか?本書の題名が直訳の「タンパク 質結晶学の原理」ではなく、「タンパク質のX線結晶解析法」になっているのは、訳 者達もこれらの状況を鑑みていると恩われる。恐らく訳者達は、C.Branden& J.Tooze著の「Introduction to Protein Structure」の訳本である「タンパク質の構造入門」(勝部幸輝・竹中章郎・福山恵一.松原央訳、教育社発行)との二部作のつもり で、本書を出版された事だろう。実は筆者は、実用面での解説を中心にした「タンパ ク質X線構造解析法の手引き」を三部作目として発行される事を密かに期待して、こ の書評を引き受けた。このような出版活動をされている訳者達の見識には、敬服の至 りである。


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