構造生物 Vol.4 No.2
¶1998年8月発行

味の素(株)構造解析機能の紹介


石川弘紀

味の素(株)中央研究所分析研究部

沃度事業を主体とした合資会社鈴木製薬所は、池田菊苗教授が昆布から発見した "うま味"の素"グルタミン酸ナトリウム"を1909年に「味の素」として商品化し (創業年としている)、その後1932年に味の素本舗株式会社鈴木商店、1946年に 現在の味の素株式会社に改称し今日に至っています。大学の先生の発明が大型商 品になった点は興味深く思います。事業展開としては、調味料・油脂・加工食品・ 飲料・乳製品・飼料・包装物流・販売・サービス・その他が拡大する一方、アミ ノ酸を軸とした医薬品・化成品等のライフサイエンスの分野(私どもはアミノサ イエンスと呼びます)も伸びてきました。

研究所としては、中央研究所・食品総合研究所・生産技術研究所・アミノサイエ ンス研究所・発酵技術研究所・医薬研究所の6つがあり、今年末に、現在戸塚 (横浜市)にある生物科学部門が川崎地区に移転し、800人強のすべての研究 員が川崎地区に集結することになります。川崎駅から京浜急行大師線で東京湾方 向に電車で5分、多摩川に隣接した土地を工場と共有しています。多摩川の土手 では昼休を利用してジョギングをする人々が見受けられ、年明けには多くの人が 川崎大師にお参りに出かけます。川崎というと、昔は、公害・喘息などあまり良 くないイメージが先行しがちでしたが、現在の川崎駅周辺は開発が進み、近代的 な都市に様変わりしています。

私たちのグループは中央研究所分析研究部に属し、主席研究員の鈴木をリーダー とし、NMR(4名)・計算科学(1名)、X線(3名)・物性研究(1名)の 計10名から成り立っており、他に1名がBERIに出向中です。NMRは60 0MHzが1台(Bruker・DMX600)、400MHzが2台(Bruker・DSX400WBと 日本電子・α400)あり、甘味蛋白質モネリン等の蛋白質から低分子化合物までの 構造解析の他、固体NMRによる物性・構造研究を行っています。計算科学では、 SGIのワークステーション3台を駆使し、IL-6等のサイトカイン類を中心に蛋白 質のモデリング等を手がけています。

X線は、野口・権藤・海老澤(固体NMR兼担)・石川の4名が担当しています。 蛋白質用回折装置(リガク・R-AXlS IIc、低分子用回折装置(リガク・AFC-5S)、 粉末X線装置(PHlLlPS-X'Pert)の3台の装置を有し、今春には蛋白質結晶用の 低温装置(リガク)も導入しました。解析用ソフトウェアは、QUANTA/X-PLOR・ CCP4・InsightU/X-sight・DENZOと揃っています。蛋白質結晶構造解析の対象と しては、様々な医薬品・食品関連蛋白質を手がけております。ドラッグデザイン がらみでの構造解析をシリーズで行ってきたのに加え、今年は、分子置換法及び 重原子同型置換法で、それぞれ2つ目の構造解析が完成する見込みです。

更に、同じ研究部内に質量分析のグループがあり、磁場型、四重極型、イオント ラップ型、MALDI-TOF等の各種装置を保有し、合成サンプルの同定と蛋白質の構 造解析を行っており、本来X線が専門の柏木は、期間限定でこのグループに所属 しています。また、医薬研究所には薬物設計のグループもあり、Structure-Based Drug Design(SBDD)において、緊密に連携しています。

TARAには、坂部先生のご好意で1996年後半より参加させて頂き、主に高分 解能データの収集に活用させて頂いております。従来からの遺伝子工学・シンク ロトロン放射光の発展・普及に加え、最近は、低温実験の普及や解析用ソフトウェ アの整備が進み、構造解析に費やされる時間が大幅に短縮されつつあります。私 たちも、スピーディーに構造解析を行い、企業におけるX線結晶学の更なる地位 向上に貢献し、世界的レベルの研究成果を生み出して行けるよう日夜努力してい ます。


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sasaki@tara.met.nagoya-u.ac.jp