沃度事業を主体とした合資会社鈴木製薬所は、池田菊苗教授が昆布から発見した "うま味"の素"グルタミン酸ナトリウム"を1909年に「味の素」として商品化し (創業年としている)、その後1932年に味の素本舗株式会社鈴木商店、1946年に 現在の味の素株式会社に改称し今日に至っています。大学の先生の発明が大型商 品になった点は興味深く思います。事業展開としては、調味料・油脂・加工食品・ 飲料・乳製品・飼料・包装物流・販売・サービス・その他が拡大する一方、アミ ノ酸を軸とした医薬品・化成品等のライフサイエンスの分野(私どもはアミノサ イエンスと呼びます)も伸びてきました。
研究所としては、中央研究所・食品総合研究所・生産技術研究所・アミノサイエ ンス研究所・発酵技術研究所・医薬研究所の6つがあり、今年末に、現在戸塚 (横浜市)にある生物科学部門が川崎地区に移転し、800人強のすべての研究 員が川崎地区に集結することになります。川崎駅から京浜急行大師線で東京湾方 向に電車で5分、多摩川に隣接した土地を工場と共有しています。多摩川の土手 では昼休を利用してジョギングをする人々が見受けられ、年明けには多くの人が 川崎大師にお参りに出かけます。川崎というと、昔は、公害・喘息などあまり良 くないイメージが先行しがちでしたが、現在の川崎駅周辺は開発が進み、近代的 な都市に様変わりしています。
私たちのグループは中央研究所分析研究部に属し、主席研究員の鈴木をリーダー とし、NMR(4名)・計算科学(1名)、X線(3名)・物性研究(1名)の 計10名から成り立っており、他に1名がBERIに出向中です。NMRは60 0MHzが1台(Bruker・DMX600)、400MHzが2台(Bruker・DSX400WBと 日本電子・α400)あり、甘味蛋白質モネリン等の蛋白質から低分子化合物までの 構造解析の他、固体NMRによる物性・構造研究を行っています。計算科学では、 SGIのワークステーション3台を駆使し、IL-6等のサイトカイン類を中心に蛋白 質のモデリング等を手がけています。
X線は、野口・権藤・海老澤(固体NMR兼担)・石川の4名が担当しています。 蛋白質用回折装置(リガク・R-AXlS IIc、低分子用回折装置(リガク・AFC-5S)、 粉末X線装置(PHlLlPS-X'Pert)の3台の装置を有し、今春には蛋白質結晶用の 低温装置(リガク)も導入しました。解析用ソフトウェアは、QUANTA/X-PLOR・ CCP4・InsightU/X-sight・DENZOと揃っています。蛋白質結晶構造解析の対象と しては、様々な医薬品・食品関連蛋白質を手がけております。ドラッグデザイン がらみでの構造解析をシリーズで行ってきたのに加え、今年は、分子置換法及び 重原子同型置換法で、それぞれ2つ目の構造解析が完成する見込みです。
更に、同じ研究部内に質量分析のグループがあり、磁場型、四重極型、イオント ラップ型、MALDI-TOF等の各種装置を保有し、合成サンプルの同定と蛋白質の構 造解析を行っており、本来X線が専門の柏木は、期間限定でこのグループに所属 しています。また、医薬研究所には薬物設計のグループもあり、Structure-Based Drug Design(SBDD)において、緊密に連携しています。
TARAには、坂部先生のご好意で1996年後半より参加させて頂き、主に高分 解能データの収集に活用させて頂いております。従来からの遺伝子工学・シンク ロトロン放射光の発展・普及に加え、最近は、低温実験の普及や解析用ソフトウェ アの整備が進み、構造解析に費やされる時間が大幅に短縮されつつあります。私 たちも、スピーディーに構造解析を行い、企業におけるX線結晶学の更なる地位 向上に貢献し、世界的レベルの研究成果を生み出して行けるよう日夜努力してい ます。