構造生物 Vol.4 No.2
1998年8月発行

創薬における構造生物学への期待


柴沼忠夫

山之内製薬株式会社創薬研究本部化学研究所長

21世紀にむけて、多くの企業がGenomicsからの創薬に期待をかけ、世界的に大 規模な投資がなされている。しかし、遺伝子情報の蓄積はかなり進んできたが、機能 解析が大きな壁となっている。

その中でBioinformaticsとChemoinformaticsが創薬へのステップにおいて重要な位 置を占めている。Bioinformaticsに関しては、タンパク質のアミノ酸Sequencesから のHomology検索により、タンパク質がどのようなFamilyに属しいかなる機能を有し ているかについて、おおまかに予測できるようなSystematicなデータベースの構築が 、 必要にせまられている。それをもとに、そのタンパク質がどの疾患に重要な役割を演 じているのかを、生理学的実験を行い細胞レベルで明らかにすると共に、Antisenseあ るいはKnockout mouse等を用いた機能解析を行い、更に、Assay系を構築し、低分子 化合物を探索し、続いて、それに適した病態動物モデルの探索とそのモデルにおける 薬効を評価し、創薬に結ぴつけなければならない。

この時、Chemoinformaticsとして似たHomologyのタンパク質の三次元構造が、 NMRあるいはX線解析によって明らかにされ、更にLigand−タンパク質の3次元構 造も解析されていると、それをTemplateとして活性部位の予測も可能となるケースも 多くなる。たとえば、もっとも構造解析の進んでいる酵素系を例にあげると、細胞内 Signal transductionにおいて多くのTyrosine kinase、Serine-threonine kinaseが関与してい る。それぞれの酵素がSigna1としてどような役割をしているか探ると同時に、選択的 な酵素阻害剤を見つけることが創薬への道への最初の入り口となる。それには、酵素 の立体構造とその基質(リン酸化部位)及び、選択的な酵素阻害剤との関係が詳しく 解明されることが選択性な酵素阻害剤を見つけるために大いに役に立つ。従って、ま ず標的タンパク質の三次元の構造解析が急速に進むことを期待している。

更に、転写因子とDNAのInteraction、Ionchannelの作動機構、Ligand(peptideを含む) と受容体との結合、タンパクータンパクInteraction(SH2,SH3等を含む)等、創薬の 観点から解明してほしい標的は枚挙にいとまがない。これらの標的タンパクの構造解 析は、機能解析と共に、21世紀に向けもっとも発展性のある夢ある研究対象である。 構造生物学が発展し、21世紀には学問的体型が確立され創薬のスピードが上がるこ とを熱望している。企業も参加したTARAプロジェクトは、構造生物学の発展に大 いに寄与するものと考えている。


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