構造生物 Vol.4 No.3
1998年12月発行

Biophysics and Synchrotron Radiation 98 (8月3日〜6日)に出席して


伊藤和輝

筑波大・応生

昨年夏に米国シカゴにあるアルゴンヌ国立研究所にて上記国際会議が開催された。こ の会議に参加した報告する。

この国際会議は、3年に一度行われており今年で6回目を数える。参加者数は、事前申 し込みでは255人であった。内訳は日本24人、ドイツ17人、イギリス15人、フラ ンス11人、その他15人、と米国からの参加者が多数を占めた。会議が行われたアルゴ ンヌ国立研究所には、第3世代放射光源であるAPS(Advanced Photon Source)がある。 APSについては後半に述べるとして、会場になったAPSのカンファレンス・ホール ば2階席のある立派なものだった。このようなホールが放射光施設に隣接していると各種 会議を開催しやすいと感じた。宿泊は研究所内にあるAPSのすぐ近くの共同利用宿泊施 設を利用した。値段は少々高めだったが(一泊60ドル弱)、部屋は広く清潔だった。 会議でカバーされたセッション名をプログラム順に列挙してみると、1)Macromolecular Crystallography(Full)、 2)Opticsand Special Techniques(Half)、3)The lmpact of Synchrotron Radiation on Biology and Biophysics: Past,Present,and Future(Full)、4)Apparatus and Techniques(Half)、5)Scattering from Non-crystalline Systems(Full)、6)Microscopiesand Medical Research(Full)、 7)X-ray,VUV,and lR Spectroscopies(Full)、8)Macromolecular Complexes: The Frontier with Cell Biology(Half+Full)となる。セッション名のあとの(Full)、(Half)は、そ れぞれセッションの長さを表している。Fullセッションは約3時間、Halfセッションは1 時間半である。プログラム全体を通して、最初と最後のセッションに巨大分子結晶を持ってきたところに巨大分子結晶構造解析に対する関心の高さを感じた。

最初のセツションは、Program committe chairmanである K.Moffat の開会の挨拶に始まり、W.A. Hendricksonが、蛋白質構造解析と放射光の関係について、NatureやScienceへの報告 数から放射光の利用度が年々増加していることを指摘した。また、多波長異常分散法 (MAD法)によって解かれた蛋白質構造の増加と、第3世代放射光光源の稼働開始時期 との関係について指摘していた。このように始まった会議だが、会議のキーワードとしては、"高輝度光源"、"高分解能"、"時分割"、"クライオ技術"、"巨大分子"、そして"CCD 型X線検出器"というのがあったように思う。検出器技術の面から会議を見てみると、縮 小型光ファイバー(FOT)とCCDを組み合わせたCCD型X線検出器が、R&D の時期から、実用化の時期へ移ってきていることを感じた。多くの講演でCCD型X線 検出器を用いたデータ収集の迅速化、簡便化の利点を強調しており、CCD型X線検出 器の普及がここ数年で急速に進んでいることを感じた。また、企業展示でもMar ResearchInc.やBurkerがシングル・モジユール・タイプの展示を行っていた(マルチ・モジユール・ タイプについてはADSC社が実用化しているが、その展示はなかった)。我々のグルー プは、2×2モジユール・タイプ(図2、3参照)のFOTとCCDを組み合わせた CCD型X線検出器の構造と基本性能についてポスターにて発表を行った。

図1: ハーフ・フルフレーム・トランスファー型CCD

図2: 2×2CCD型X線検出器

図3: 2×2CCD型X線検出器の写真

この検出器 は、CCDを図1のように受光部とバッファ部に分割して利用することにより露光と読み 取りを同時に行える特徴を有する。FOTとCCDを組み合わせたCCD型X線検出 器には、普通はフルフレーム・トランスファー型のCCDが使われるが、読み出しを行う 際に外部シャッターなどで遮光する必要がある。我々のCCDはこの点を浜松ホトニクス と共同で改良した結果、外部シヤッターを用いる必要のない、Duty比が100%の検 出器を開発することに成功した。この機構は、結晶の回転を止める必要もないため、複雑な同期を取らずに済むという利点を有する。このようなユニークな機構について、K.Moffat や H.Huxley などから説明を求められ、実際に結晶を使った実験の結果を期待するという意見を頂いた。また、完成後にはどこにインストールされるのか、と聞かれPFにインス トールする予定であると答えた。次世代X線検出器技術としてはPAD(Pixel Arrayed Detector)について、プリンストン大学の E. Eikenberry の講演があり、100×92画素 のシリコン・べ一スのものをテスト中であるという報告があった。また、未テストではあるが、ガリウムヒ素・ベースのものも完成しているとのことだった。

今回、APSを初めて訪問して感じたことは、"勢いがある"ということだった。見学ツ アーで実験ホール内をまわっているときにも、とにかく俺たちはこれからガンガンやってやるぜ、という気迫を感じた。APSでは早い時期からマルチ・モジユール・タイプの FOTとCCDを組み合わせたCCD型X線検出器の開発を行ってきており、E. Westbrook らによって最初に3×3モジユール・タイプが実用化されたところでもある。その実用化 されたCCD型X線検出器はIMCA一CATのビームラインで稼働中であった。検 出器の固定治具、データ収集系、データ処理系(SGIのサーバ)がピームラインにあり、 データリダクション用のソフトウエアにはd*Tre k(MSI社製)とHKL(HKL 社製)が用意されていた。FOTとCCDを組み合わせたCCD型X線検出器には、画 像歪みと感度不均一性が存在するが、APSでは、ほぼリアルタイムでそれらの補正を行 うシステムがあり、定常的にCCD型X線検出器を利用できる体制が完成していた。こ の点については、我々のシステムについても早急に実現するように開発を急ぐ必要がある。

次回2001年のBSRは、プラジルで行われることが決まった。前回がESRF、今 回がAPSということもあり、次回はSpring-8だろうと考えたが、意外にもブラジルで あった。ブラジルは、カンピーナスに放射光施設が建設されすでに稼動している。しかし、 日本から見ると地球の反対側であるので、参加するは大変だが、次回には、現在製作中で ある3×6モジュール・タイプのCCD型X線検出器による構造解析の結果を発表でき るように、と帰りの飛行機の中で心に誓った。

このマルチ・モジュール・タイプのCCD型X線検出器の開発は、日本学術振興会未 来開拓学術推進事業坂部プロジェクトおよびPFからの支援によって東大・工雨宮先生 を中心に行われているものである。


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