構造生物 Vol.5 No.2
1999年9月発行

MSI製品のご紹介


株式会社菱化システム・科学技術計算部


MSI製品をご導入頂いてから、数年が経過し、MSIの製品ライン、1999年4月より日本国内 での販売・サポート体制も大きく変更されました。また、製品間のモジュール関係もかなり整理されてきましたので、最新のMSI製品のご紹介をさせて頂きます。

MSl製品の代理店体制の変更について

1995年にMSIとBIOSYM社が合併して以来、日本総代理店でありました帝人モレキュラーシミュレーションズ社(TMSI)の複数の代理店がMSI製品の販売、保守サポートを含めた活動をしてきましたが、TMSIが1999年3月にMSIの親会社であるPharmacopeia,Inc.に買収されたことに伴い、1999年4月より株式会社菱化システムがMSI製品の日本総代理店となりました。

菱化システムは、日本国内で唯一MSI全製品を現在まで取り扱ってきております。この度の再編は、MSIが提供するライフサイエンス系、マテリアルサイエンス系の全製品について窓口を統一することにより、MSI製品をお使い頂いております皆様に、より迅速に的確なサービスをお届けすることを目的としています。

国内代理店体制に関する発表記事については、下記弊社ホームページでご覧頂けます。
http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/MSI_Home/msi_home.html

MSI製品ラインについて

現在、MSIのライフサイエンス分野における製品ラインは、グラフィックスインタフェース別に下記のようになります。

● InsilghtI生体高分子のモデリング・モジュール及び分子シミュレーション
● QUANTA生体高分子結晶構造決定モジュール
● Cerius2薬物分子設計モジユール及びマテリアルサイエンスモジュール
● CATALYST薬物分子設計モジュール
● WebLab Webベースソフトウェア

Insight II とQUANTAについては主に生体高分子を対象とした同等の機能を持つものとして開発されきましたが、QUANTAをインターフェースとして使用していたモジュールは、結晶解析等の一部を除いてほぼInsight II にインタフェースがとられましたので、生体高分子のモデリングにつては、Insight II が標準となり、QUANTAは、結晶構造解析の専用インターフェースという位置づけとなりした。

Cerius2は、主に薬物設計を目的としたモジユール群となります。Cerius2系のモジユールについては、C2・XXXX(XXXXは、モジュール名)という呼び方をしています。

CATALYSTは、3D−QSAR(定量的構造活性相関)を行う薬物設計ソフトウェアです。作用仮 説部位を抽出する機能の一部は、Cerius2からもアクセス可能ですが、CATALSTは、パッケージプログラムとしての独立性が高いため、CATALyST本来の製品コンセプトを生かして開発が続けられています。

WebLabは、Webを利用した環境での使用を目的としたシステムです。WebLab GeneExplorer、Medchem Explorer、Diversity Explorerの3製品がリリースされています。各デスクトップ環境における3次元分子表示ソフトウェアとして、WebLab Viewerをプラグイン・ソフトウェアとして使用します。WebLab Viewer Liteは、表示機能のみの無料配布ソフトウェアで、菱化システム、MSIのホームページからダウンロードして使用することができます。簡単な分子モデリング機能付のWebLab ViewerProは有料です。

Insight II によるStructure Based Drug Design

近年のゲノム科学の発展に伴い、配列から機能予測をして行く上で重要なモジュールと、立体構造に基く薬物設計に使用されるモジュールの開発と改善が継続的に行われています。

Homology、SeqFold、Modeler、Profile-3D、Binding Site Analysisの各モジユールでは、立体構造の予測から機能部位の推定まで一貫して行うことができます。

Homologyの配列検索機能とSeqFoldのThreadinlg法による折り畳み予測に基づき、ターゲ ット配列と類似の折り畳みを持つ構造を検索します。ターゲット配列と立体構造既知の配列を正確にアラインメントした後、Modelerで夕ーゲット配列の立体構造を自動構築します。構築された構造の評価のためにHomologyモジュールのProstat機能によるジオメトリーチェックとProfile-3Dによる折り畳みのチェックが用意されています。

Binding Site Analysisは、得られたタンパク質の立体構造から、機能部位特定、解析を行うために使用します。リガンドが結合可能な活性部位ポケットの探索、機能モチーフの部分構造をクエリーとした3次元DBの検索、タンパク質ファミリーの配列のマルチアライメントによるクラスター解析等を行い、活性部位に必要な残基の絞り込みを行うことができます。

分子モデリングあるいは構造決定により得られたタンパク質の立体構造に基づき、Affinity、LUDI、MCSS等のモジュールを用いてタンパク質と薬物分子の分子間相互作用を評価します。

Affinityは、ターゲットのリガンド分子と受容体であるタンパク質の分子間相互作用を検討するために使用します。分子力学法に基づく非結合相互作用以外に、ペナルティー項、水素結合接触、リガンド分子の拘束、部分構造の拘束を考慮したドッキングを行います。

LUDI、MCSSは、受容体のタンパク質の立体構造に基き薬物候補化合物を検索するために使用します。LUDIは、タンパク質の活性部位における水素結合部位と疎水性領域を判断し、3次元構造フラグメントデータベースを検索して、3次元空間にフィットするようにフラグメントを配置します。また、MCSSは、活性部位の情報から官能基の最適な結合部位を分子力学計算により決定します。

静電ポテンシャル計算を行うためのモジュールとしてDelPhiがあります。Poisson-Boltzmann方程式を解く際に、分子内と溶媒の誘電率を考慮して計算できるため分子表面、分子周辺の静電ポテンシュルを精度良く計算します。活性部位のポテンシャル分布の評価に基づく分子相間互作用評価、溶媒和エネルギー評価、残基ミュータントによるpK変化の評価を行います。

分子力学・分子動力学計算プログラムと分子カ場

分子シミュレーションに利用される分子力学・動力学計算(MMlMD)プログラムは、Discover、CHARMm、C2.Minimizer、C2.Dynamics、C2.OFFがあります。Cerius2のMM/MDは、主に有機低分子、合成高分子、錯体等に利用されるため、ペプチド、タンパク質、DNA、糖、脂質を計算する場合には、Discover、CHARMmを利用するのが一般的です。MM/MD計算は、分子の安定構造を求めたり、分子の挙動をシミュレーションするために広く利用されています。分子問相互作用の評価、構造決定された構造を基にミュータント構造の予測、ペプチドのコンフォメーション解析等様々な応用例があります。

MM/MD計算で基礎となるのが力場ですが、MSIでは、BIOSYM社設立時より開始されたPotential Energy Function(PEF)コンソーシアムにより、力場の改善が継続されてきました。1970年代から1980年代にかけて開発されてきたAMBER、CHARMm、CVFF(Discover力場)等を第1世代力場として位置づけ、第2世代力場(ClassI力場という言い方もします。)であるCFFを開発してきました。

第2世代力場の特徴は、結晶空問における分子構造の再現できるように交差項と非結合エネルギー項の改良がなされていることです。非経験的分子軌道法により、安定構造付近のポテンシャル面をサンプリングし、実験による結晶構造を再現するように最小二乗法を使って、ポテンシャル面が合致するようにパラメータをフィッティングします。これにより、第一世代力場の実験値の誤差や条件依存性の問題を大幅に改善しています。その結果としてタンパク質以外に有機低分子、糖、DNAの精度の高いパラメータが提供されてきました。

材料設計分野では、CFFをベースに物質のバルク状態を正確に再現するCOMPASSが開発され、機能材料分子、医薬分子の結晶成長、結晶多形予測の分野で高精度の力場として評価されています。分子シミューレションプログラムを利用できる力場の関係は下記の通りです。

生体高分子結晶解析

Insight II をインターフェースとして使用するXsightとQUANTAをインタフェースとして使用するQUANTAのX線関連のモジュールがあります。

Xsightは、位相決定からマッブフィッティングまでを一貫して行えるシステムとして設計されています。MIR解析と電子密度フィッティング用にXtalView、MAD法位相決定MADSYS、分子置換法REPljLCE、最小二乗法精密化ProLSQ、剛体精密化PotLSQの各モジュールを含みます。さらに電子密度修正、構造検証、結晶のパッキングダイヤグラム等の機能があります。

QUANTA系結晶構造解析モジユールは、モデルフィッティングを中心とした構成となっています。電子密度マップから二次構造領域を決定するX-POWERFlT、電子密度マップにアルファ炭素のトレースを行うX-AUTOFlT等によりモデルフィッティングのかなりの部分を自動化しています。また、タンパク質/リガンドの複合体においてリガンドのコンフォメーションをサンプリングしてモデルフィッティングを行うX-LIGANDや、溶媒分子位置を決定するX-SOLVAlTEモジュールがあります。

位相決定については、Xsightを利用し、モデル構築にQUANTAを利用するというのが一般的なMSI結晶解析モジュールの利用方法です。X-Plorとのインターフェースは、Xsight、QUANTAどちらも兼ね備えています。

NMR構造決定

NMRモジュールは、NMR装置からのデータ処理を行うモジュール群のFELlXと、NOEデータの東縛条件に基づいて構造構築を行うモジュール群NMRchitectに大別できます。

構造の精密化計算については、Discover、X-PLOR、DGI(ディスタンスジオメトリー)等のプログラムを利用します。精密化計算プログラムは、計算対象とする分子に応じて使い分けます。

Cerius2薬物分子設計

コンビナトリアルケミストリー(略してコンビケム)、HTS(ハイスループットスクリーニング)、薬物分子の解析、評価に関連するモジュール群を中心に開発されてきています。 コンビケム、HTSにおいては、C2.AnalogBuilder(C2.Algnment等のモジュール)でバーチャルライブラリーを構築します。C2.Diversityで化合物の特性の主成分解析を行い、数十万件に及ぶライブラリーの設計、解析を行い、主成分空問内の化合物のサンプリングをします。構築されたライブラリーの比較、評価、選択は、C2.LibCompare、C2.LibSelectで行います。C2.CSAR(Classification SAR)は、HTSの結果を解析します。

低分子モデリングモジュールでは、C2.Conformer、C2.Asearch、C2.Algnmentにより大量で定性的な化合物の構築、コンフォメーション解析を行い、C2.QSAR+、C2.GA(遺伝的アルゴリズム)によりQSAR解析を行います。また、薬物からの情報を基にして、受容体の特性を検討するC2.Recepterがあります。

SBDD関連のモジュールも積極的にCerius2組み込まれています。Insight II で開発されたLudiがC2.Ludiとして利用できようになり、C2.SBF(Structure Based Focusing)は、レセプターの活性部位情報を解析して、相互作用部位のクラスターリング、薬物のファーマコフォアを作成します。C2.LigandFitは、レセプターと薬物のドッキングを評価するCerius2用のモジュールです。

分子軌道法計算

MSIでは、DMol、DMol、Turbomole、ZlNDO等の分子軌道法計算プログラムも提供しています。MOPACを中心とする半経験的分子軌道計算プログラムについては、薬物のQSAR解析等を行うために利用されますが、タンパク質の活性部位の反応について詳細な検討を行う場合には分子軌道計算プログラムと分子力学計算を組み合わせて利用することもあります。Gaussian、MOPAC2000の様な汎用的分子軌道法計算プログラム等へのインタフェースもInsight II に用意されています。

プログラムの使用に関して

特に初めてMSI製品をお使いになる方を対象にご説明します。まず、日本語の導人資料を簡単に目を通してからご利用するようにして下さい。日本語の資料には、プログラムの起動方法、使用目的、対象分子、応用例、操作手順が簡単にまとまられています。

プログラムを起動したら、分子を読み込んで表示し、分子の表示関連のコマンドを操作しながらコマンドの体系や、分子データの取扱いを理解するようにしてください。

次の点に注意して操作をして下さい。
●恩わぬ操作ミスやバグでプログラムが終了してしまうことがありますので、重要な操作をした後などは、データをファイルに保存して下さい。
●アミノ酸フラグメントは、各プログラムにより取り扱いが微妙に異なります。水素原子の位置、N末端、C末端の取扱いなどは注意して下さい。
●プログラムの入出力ファイルの関係を把握するようにしましょう。
●シミュレーションを行う際には、結合次数、水素原子の有無等、分子をよく確認して下さい。MM/MD計算は初期構造に依存するという大原則があります。初期構造の選び方が、その後の解析にも大きく影響するので、初期構造には細心の注意を払うようにして下さい。
●長時間のシミュレーションを行う場合には、繰り返し計算の回数等を滅らして試し計算を行い、計算が問題なく行われるか確認してから本格的なシミュレーションを行うと良いでしょう。
●シミュレーションを行うとたくさんのファイルが作成されます。ファイルの整理はまめに行うようにしましょう。ディレクトリーを作成して、ディレクトリー毎にREADMEファイルを作成してシミュレーションの簡単なメモを残しておくと、後で便利です。

使用可能なモジュール

どのモジュールが利用できるかは、下記のコマンドで確認できます。
>license_verifier

オンライン・マニユアル

MSI製品のホームディレクトリ下のmsLdocにMSI製品のオンラインマニユアルのファイルがあります。Netscape等のブラウザーでmsi_doc/index.htmIを開くと各製品のオンライン・マニュアルを見ることができます。

日本語資料

Insight II、QUANTA、Cerius2の導入トレーニング用の日本語資料を用意しています。

製品、サポートに関する情報

菱化システム及び、MSIのホームページに掲載されています。
●菱化システムMSIサポートホームページ:
http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/MSI_Home/msi_home.html
●MSIホームページ:
http://www.msi.com/

表化システムへのお問い合わせ

電子メール、FAX、電話でのお問い合わせを9:30−17:00まで受け付けています。緊急のご運絡以外は、なるべく電子メール、FAXでお問い合わせ頂く様お願いします。ソフトウェアのバージョン、使用モジュールご明記頂き、お問い合わせ下さい。また、ソフトウェアからのメッセージ、ログファイルの内容等も添付して下さい。
E-mai1:support@cubs.bio.rsi.co.jp
電話:047-380-1231 FAX:047-380-1239

定期トレーニング・コース

千葉県浦安市と大阪市で毎月トレーニングコースを開催しています。トレーニングでは、2人/台の割合でワークステーションをご用意しています。コース日程は、FAX、郵便、ホームページでご案内しています。

トレーニング案内:
http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/MSI_Home/support/training.html

セミナー、その他

定期的なトレーニングコース以外に、菱化システムでは、計算化学セミナーを開催しています。計算化学セミナーでは、MSI製品に限らず計算化学関連製品のご紹介やワークショップを開催しています。ご案内状を直接ご希望の場合には、弊社サポート受付までメールでご連絡下さい。
計算化学セミナー案内:
http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/Seminar/seminar_index.html


ご意見、ご要望などは下記のアドレスにメールを下さい。
sasaki@tara.met.nagoya-u.ac.jp