構造生物 Vol.5 No.2
¶1999年9月発行

結晶化・立体構造解析のためのタンパク質精製ストラテジー


大島 典子

アマシヤムフアルマシアパイオテク株式会社

結晶化および3次元構造解析を目的とした酸素感受性酵素の精製

謝辞

この研究はMatthew Lloyd博士、Christopher Schofield博士(Oxford Centre for Molecular Sclences, United Kingdom)およびInger Andorsson教授(Department of Molocular Biology-Swedish University of Agricultural Scicnces, Uppsala)の協カによって行われ ました。また、EU grant BIO4-CT96-0126(DG12-SSMI) "Four-dimensional X-ray crystallography of penicillin and cephalosporin biosynthctic enzymes : Towards new antibiotics"にサポートされました。

References

1.Morgan,N. et al.(1994) Bioorg. Med. Chem. 4, 1595-1600.
2.Roach, P. L. et al.(1997) Structure of isopenicillin N synthase complexed with substrate and the mechanism of penicillin formation. Nature 387, 827-830.

クロマトグラフィー担体によるインクルージョンボディの再生

遺伝子組換え技術の進歩により、大腸菌細胞内での外来遺伝子の高発現が比較的手軽に行えるようになりました。しかし、その高発現のために外来遺伝子がインクルージョンボディ(細胞質内封入体)と呼ばれる直径0.2・1.5ミクロン程度の不溶性の凝集顆粒として生産されるケースがしばしば起こります。このインクルージョンボディは微生物の細胞内では最も密度の高い構造体であるため、内生の可溶性分子とも遠心分離などによって容易に分離できるものの、活性型の構造に戻すためのリフォールディングと呼ばれる再生操作が困難です。
リフォールディングの方法としては、高濃度の可溶化剤を希釈あるいは透析により低濃度化して活性型の構造へと導く方法が良く知られていますが多数のジスルフィド結合を有するタンパク質の場合など、再生が難しいケースも多く残されています。
このような問題を解決するための試みのひとつとして、クロマトグラフィー担体を用いた再生法について紹介します。

ゲルろ過カラムによる方法

塩酸グアニジン(GdmCl)や尿素のような可溶化剤存在下でのゲルろ過が可溶化したインクルージョンボディ中に含まれた不純物や部分的に形成された複合体画分を除くのに効果的であるとする報告がいくつかあります。
WeirとSparks(1)は大腸菌にて発現させたインターロイキン2のインクルージョンボディを10mMのDTTを含む8MGdmCl(pH8.5)で可溶化した後、可溶化液と同様の組成のバッファーで平衡化したSuperose 12 HR 10/30カラム(アマシャムファルマシアバイオテクK.K.)を用いゲルろ過を行いました。単量体インターロイキン2の画分のみを分取し、希釈によりリフォールディングを行っています。
同様な手法は、Gillらによる組換えウシ成長ホルモンの精製(2)、MarcianiらによるHlV工ンベローププロテインの精製(3)、Foutoulakisらによる可溶性ヒトインターフェロンγレセブターの精製(4)において報告があります。
さらに最近、ゲルろ過カラムで分画のみならずリフォールディングまでも行ったという報告がなされています。Wernerら(5)は、1分子中にシステインを9残基含む6-8M GdmCl(pH8.5)にて可溶化したあと可溶化剤を含まないHEPESバッファー(pH6.8)にて平衡化したSuperdex75HR10/30カラム(アマシャムファルマシアバイオテクK.K.)で展開しています。その結果、活性型の組換えETS-1を71±15%の収率で得ることに成功しています。

イオン交換/疎水性相互作用クロマトグラフィー担体を用いる方法

イオン交換あるいは疎水性相互作用クロマトグラフィー担体にインクルージョンボディを不溶性のまま吸着させ、塩で溶出させることにより、可溶性とリフォールディングを同時に行ってしまう例が報告されています。Hoessら(6)は3種類の組換えタンパク質のインクルージョンボディを不溶性のまま、Q Sepharose FastFlow(アマシャムファルマシアバイオテクK.K.)に吸着させ、NaClを加えて溶出させることにより活性型のタンパク質を回収しています。
また同時に彼らはS Sepharose FastFlowやPhenyl Sepharose(アマシャムファルマシアバイオテクK.K.)を用いたリフォールディングについても言及していますが、この場合には吸着は必要ないと述べています。

(1). Weir,M.P and Sparks,J.,Biochem. J., 245,85-91(1987).
(2). Gill, J. A. et al., Bio/Technology, 3, 643-646(1985).
(3). Marciani, D. J., et al., In:Protein purification:Micro to Macro, Alan R. Liss,inc.,443-458(1987).
(4). Fountoulakis, M. H. et al., J.Biol.Chem., 265,13268-13275(1990)
(5). Werner, M. H. et al., FEBS Letters, 345, 125-130(1994)
(6). Hoess, A., et.al., Bio/Technology, 6,1214-217(1988)


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