構造生物 Vol.5 No1
¶1999年4月発行

台北研究機関訪問記


坂部貴和子

国際科学振興財団

平成10年11月17日から11月25日まで、坂部知平教授と共に台北の研究所並びに大学を訪問した。訪問の日的は放射光研究センター(SRRC)で行われた第4回ユーザーズミーティング及びその前に行われたX線及びニュートロン散乱に関するワークショップに参加し、台北の大学及び研究所の視察を行うことであった。

SRRCでは先ず散乱についてのプレスクールが16日に開かれた。それに引き続き17、18日の両日はX線および中性子線散乱に関するワークショップが、19、20日には第4回放射光研究センター・ユーザーズミーティングが開催された。

17日の午前中には開会の挨拶に引き続きMagnetic Systems and Solidsと題するセッションが開催され、午後にはNew Techniquesと題するセッションがもたれ、それぞれ4つの講演があった。18日午前にはNew Facillities,午前から午後にかけてはSoft Matterのセッションがもたれた。蛋白に関係するものはなかったこともあって我々は会議を覗いた程度であったが、招待講演者11人中8名が外国からの招待者(アメリカ5名、フランス1名、デンマーク1名、インデア1名)で参加者も多く質疑も活発に行われていた。中性子については、新しく研究施設を建設して、研究が地元で再開できるというので会議は大変な盛り上がりを見せた。我々は招待者と食事を共にさせてもらい雑談を楽しんだ。台湾訪問は2回日であったが、SR関係者の興味がよく分からなかったので、この雑談は講演の資料作りにおおいに役だった。

放射光関係のユーザーズミーテイングは19日から始まった。先ず所長のChien−Te ChenさんがSRRCの現状を話された。SRRCでは蛋白結晶構造解析用のステーションはウイグラーラインにあり、マックサイエンスのDlPが設置されている。講演で特に強調されたのはSPring8に偏向電磁石とアンジュレータビームラインの2本のビームライン建設が決まったことであった。平成11年度度建設予定の偏向電磁石のビームラインの責任者は副所長のKeng S. Liangで蛋白質結晶構造解析はこのビームラインを使うことになるとのことであった。今は装置としてなにを置くのかが議論されていた。また、平成12年度建設が予定されているアンジュレータビームラインの責任者はSRRC所長のChien-Te Chenであることからこのビームラインの説明には特に熱が入っているように感じられた。この講演に引き続き東京大学の藤森先生が"Photoemission Spectroscopy of Low-Dimensional Correlated System"と題する講演をされた。 午後には清華大学のShih-Lin Changさんらによる "Direct  Phase  Determination for Macromolecular Crystals by Stereoscopic Multi-Beam Imaging"と題する講演があった。この理論は歴史的には古いものであるが、重原子誘導体を作らなくても母結晶のみで直接位相決定ができることから興味がもたれた。ただし、基準となる反射の位相がなんらかの方法で求められていることが必要であります。また、この方法の適応には大変精度の高い測定が要求される。講演ではTetragonal Lysozyme結晶を使って100以上の位相決定ができたとのことであり、実用化に向けての今後の発展が期待できるものであった。次いで坂部知平が"Newly Designed Fully Automatic Data Collection System Using Imaging Plate from Protein Crystals“と題する講演を行った。坂部は講演の中でこれまでPFで開発してきたスクリーンレスワイセンベルグカメラについて歴史的に紹介し、更にイメージングプレート読み取り装置開発、特にノイズ対策に言及し、現在開発中の高速高精度高分解能自動ワイセンベルグカメラの特徴及び設計思想などを述べた。更にこれまでに完成したカメラ部、読み取り部、消去部、等について写真を使って紹介した。また、Hanna S. Yuan博士はPFのユーザーであり、既にPFでの解析結果を持っていたが、ここでのポスターセッションではPFでの結果は報告できないとのことだったので、坂部知平がHanna S. Yuan博士の代わりに2枚の0HPを頂いて紹介した。ついでAntony J. Bourdillonさんが"Function and Design of the Singapore Synchrotron Light Source"と題する講演をされた。Singapore Synchrotron Light Source(SSLS)は1999年4月に始まった大変新しいもので、0xford lnstrument のHelios II(0.7 GeV)が設置されている。線源は4つの分野;X線リソグラフィー、micro machining,物性研究、蛋白質結晶解析に分けて利用されるとのことであった。以前オーストラリアで蛋白質結晶解析をやっているシンガポールの研究者にお会いしたことがあるが、シンガポールでも蛋白質結晶解析が盛んになる可能性を知ることができ大変嬉しかった。また20日には名古屋工業大学の田中清明さんが"Development of Vacuum Camera Imaging Plate Method and Its Application to the Electron Density Study of KNiF,Crystal"と題する講演をされた。SPRing-8の偏向電磁石のビームラインを使った大変ホットな結果で、特にこのような超精密解析の場合、Denzoではデータ処理がうまくゆかず自分たちでプログラムを開発することにより精度の高いデータが得られたとのことであった。蛋白質結晶構造解析には関係の薄い発表の中にもいろいろ興味あるものがあった。ここでの世話人をしてくださったのはセンターで蛋白のビームライン担当者のYuch-Cheng Jeanさんで飛行場から宿舎までの車の中でPFのビームラインについていろいろ質問を受けた。帰国後も台湾からのPFユーザーに対しDenzoプログラムのことや大きなデータのプロセスのこと等でいろいろ助けて頂いている。筑波大学の福谷研出身の由利さんが日本人としては一人、大変苦労をしながら、ここで「一旗上げたい」という大きな夢を持ってセンターで働いておられる。その姿は大変印象的で実に頼もしく見えた。由利さんは今回、藤森先生を囲む非公式なミーティングの世話役をやっておられ、大変忙しく楽しそうに活動しておられた。

会議の後分子生物研究所のHanna S. Yuan博士の研究室を訪問した。この研究所は台北の郊外にあり、まわりには数多く研究所があることから、いわば研究団地の一角に立っていた。非常に近代的な研究所で設備も大変よく整っている。スタッフは大変若く平均年齢が35才前後であり50代の人にはお会いすることがなかった。先ず彼女に研究所の概略を説明して頂き、所内を案内してもらった。特に計算機やX線関係の装置、結晶の作成状態などを見せて頂いた。これまでの経験から、このようにしてユーザーの研究環境を知ることによりPFでの実験に来られた際のトラブルを最小限にすることができる。また同じ研究室で蛋白質結晶構造解析を行っているChwan-Deng Hsiao博士、Yen-Chywan Liaw博士から研究紹介をして頂いた。また陽明大学ではShwu-Huey Liaw博士の研究室を訪れた。まだ移られたばかりであるが、なかなか良い環境にあり、これからの発展が大いに期待される。お父様が日本の会社で7年間お仕事をされていたとのことで、高台にあるお宅に1晩泊めて頂き、お父様から日本語でいろいろ台湾と日本との関係について伺うことができた。

短い旅でしたが、台湾の研究者の方々との間で友好関係を結び、放射光利用者との間のコミニティーを作ることができたことから、この成果を今後の研究活動に大いに役立てたいと思っている。


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